四次元水干
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「ねぇ」 久しぶりの、二人きりで過ごす自由な時間。 ハクの部屋でお菓子を勧められた千尋は、そのお菓子に手をつけようともせずにハクに詰め寄った。 「なに?」 「私‥‥前から気になってる事があるの」 真剣な千尋の表情に、ハクは帳簿を書く筆をおいて、千尋に向き直った。 「私にわかる事なら何でも答えてあげるよ」 ハクがそう言うと、千尋はずいっと膝で近づいた。 「‥‥‥ほんとう?」 「‥‥本当‥‥だよ」 あまりの気迫に、ハクのほうが圧される。 ハクはそれだけを何とか口にした。 「あのね」 ハクが、ごくっと息を呑む。 「‥‥ハクの、その水干の中ってどうなってるの?」 絆創膏が出てきて おにぎりがでてきて 裁縫セットが出てきて 巻物も出てきて その前は服も出てきたこともあったし 「なのに、全然ぷっくりふくらんでないでしょ!! なんなのそれ!? 四次元ポケット!!?」 「‥‥‥千尋?」 「すっっっごく気になるの。ね、ハク。手突っ込んでみていい?」 「!!!!」 ハクはがたーんと机にへばりついて、慌てて水干の前を押さえた。 すでに千尋の手はわきわきと動いて、戦闘態勢に入っている。 「何でも答えてくれるって言ったでしょ、ハク? ねぇ‥‥私、とっっっても気になるの」 「い、いや、千尋と同じ服で、何も不可思議な事はないよっ」 「いーえっ! 絶対に四次元よ!! でなきゃそんなに次々とものが出てくる訳ないっ!!」 妙に力説する千尋の背後には、きっと炎がメラメラと燃えているはず。 今のハクは、まるで蛇に睨まれたカエルのごときであった。 「という訳で‥‥一度手を入れさせて―――――っっっ!!!」 「ち、千尋っっっっ!! 落ち着きなさいっっっっ!!! 千尋――――――っ!!!」 どがしゃーん、という派手な音に、一瞬近くを通っていた従業員達が目を見張る。 が、その音がハクの部屋から聞こえて来たのに気づくやいなや、「触らぬ神に祟りなし」とばかりに聞かなかったフリをする。 たとえ、時々聞こえてくる悲鳴がハクのものであったとしても、関わってはならないのである。 それが湯屋従業員一同の暗黙の了解であった。 「おっかしーなぁ‥‥別に何も入ってないよねぇ」 ハクを押し倒し水干の中に手を突っ込んだ千尋は、わきわきとあちこちを探るが期待していたような手応えはない。 「だ、だから普通だと言っただろう‥‥。そ、そろそろどいてくれないか‥‥千尋‥‥」 「うーん‥‥」 下手に動く事も出来ず硬直しているハクを見下ろし、千尋はうん、と何かを決心したように一人頷いた。 「探ってわかんないなら、きちんと目で確認、よね♪」 「‥‥はいっ!?」 「という訳で‥‥ハク、脱いじゃおうね〜〜〜〜!!!」 「正気か、千尋――――――!!!!!」 そのまま脱がしにかかる千尋に、ハクは今度こそ本気で悲鳴をあげた。 次の日。 「よっ、ハク」 ぐったりとした様子で歩いているハクに、リンが声をかけた。 「なんだ、ずいぶんと疲れてるじゃん。‥‥まさか、疲れるような事したんじゃねーだろな?」 「‥‥‥リン」 地の底からわき出るような声に、リンが後ずさる。 そんなリンの肩をがしっと掴んで、ハクは「ふふふふ」とヤバい笑みを浮かべていたりする。 「な、なんだよハクっ」 「‥‥人間の娘とは皆あんな感じなのか‥‥??」 「‥はぃ?」 「一度じっくり聞きたい‥‥‥つきあえ」 「つきあえって、ちょっと、おいっ、まてハク―――――――!!!!!」 ハクはそのままずりずりとリンを引きずっていってしまった。 とばっちりを受けたリンが、その憤りを千尋に向けたのは言うまでもなく。 しばらく女部屋からは奇声が絶えなかった。 END |
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映画見た後は何か変なネタばかり浮かびます(爆)。3回目見た後に浮かんで、書いてほったらかしていたネタです。皆様きっと思ったであろう事ですが‥‥一体あの中はどうなってるんでしょうかね。不思議です。絶対に四次元ポケットだと思いますが‥‥。 |