仁義なき闘い
その1

36000HIT キリ番作品







「いい天気ねー」

千尋は空を見上げてうーん、とのびをした。

「いい天気だね」

ハクもつられるように上を見上げる。

「いい天気だな」

そんな二人の間に割り込むようにして座っているのは―――――今や普通の小学生くらいにまで成長した坊だった。



とあるいいお天気の日。

買い出しに出かけるという千尋に「荷物持ちについていこう」とハクが言い出して。

二人でお出かけという事になったのだが。

そこにはなぜか坊の姿もあった。

そしてなぜか三人で寄り道をして、草原に腰を下ろして空を見上げている‥‥という状態になっていたのである。




「‥‥‥どうしてあなたがここにいるんでしょうねぇ?」

ハクは恨みをこめて坊の首根っこをつかまえてつり上げた。

「いたいいたいっ。暴力はんたーい!」

「別に私は何もしてませんが」

「坊をいぢめてるじゃないか!!」

「いじめてなんかいませんよ?」

「あ、あの‥‥二人とも‥‥」

さすがに険悪なムードを悟ってか、千尋が間に割って入った。

「たまには3人で出かけるのもいいじゃない? ね?」

にこっ‥と微笑んで千尋にそう言われ、ハクは仕方ないといった様子でその手を離した。

ぼてっ! と地に落ちた坊がお尻を撫でる。

「いってー‥‥ハク、やっぱり意地悪だ」

「大丈夫、坊?」

痛いところがあったら見せて? と身を案じる千尋に、ハクの眉はぴくっとひそめられ、坊はにこ〜と笑顔になる。

「あちこちいたい。ハク、意地悪だから」

「そんなに叩かれたりしたの? もうハク、だめじゃない。坊はまだ小さいんだから‥‥」

坊はぴとっと千尋にしがみついた。

「千が抱きしめてくれたらすぐに治るぞ」

むかむか。

腹の底からムカついているハクは、それでも千尋の前での流血沙汰は避けようと必死に我慢をしていた。

が。

「こんな風に?」

千尋は苦笑して坊を優しく抱きしめる。

それに便乗して、坊が千尋の胸に顔を埋めた時についにブチ切れた。

自分でもまだした事ないのに!!!(これが本音らしい)

坊の首根っこをつかまえて、ぽいっと放り投げる。

まだ体重の軽い坊はその勢いに合わせてほうりなげられ、ころんと大地に転がった。

「ぼ、坊!!! 大丈夫っ‥‥」

ハクは慌てて駆け寄ろうとした千尋の腰に腕をまわし、自分の方に引き寄せる。

「ハクっ‥‥もう、ふざけないで! 坊が怪我したら大変じゃない!!」

「千尋‥‥‥なら私はどんなに傷ついてもいいというのかい?」

その言葉にはっと上を見上げると、心底傷ついた‥といった表情のハクが、辛そうに千尋を見つめている。

「そうじゃないの‥‥ハクの事傷つけたい訳じゃないの‥」

千尋はハクの頬に手をはわせて小さく「ごめんなさい」と呟いた。

「それなら良かった‥‥千尋に嫌われたら、私はどうしたらいいかわからなくなる‥‥」

「嫌いになんかならないよ‥‥私、ハク大好きだもの‥‥」



さて、立場がないのはさきほど放り投げられた坊であった。

大地に転がったまま、二人の世界に突入してしまったハクと千尋をただただ恨めしく見上げるばかり。

「‥‥‥‥リベンジしてやる‥‥」

坊がそう呟いたのを、果たしてハクは聞いただろうか。






寄り道はあったものの、ようやく今回の外出の目的である買い物に行動を移した三人であったが。

千尋を挟んでなにやら不穏な雰囲気が漂ってくるのは致し方ない事であった。

千尋の右にはハク。

本当ならば千尋が持つはずだった買い物かごを持って歩いているのだが、視線は千尋のその向こうに注がれている。

千尋の左には坊。

子供の姿である事をコレ幸いにと、千尋の腕にしがみついて甘えるように寄り添いながら歩いている。

まだ7、8歳の子供の姿である坊は、一人っ子の千尋にとって弟のような存在。

坊の行動は千尋の母性本能をいたく刺激させるので、千尋にとっても悪い気分はしない。

それがよけいにハクの逆鱗をさわさわと刺激し続けているのである。

「あ、ここだよ。ここで布地買わないといけないの」

千尋が指さした店は、布地屋。

「色々と作らないといけないもの多いから、多めに買って来てねって言われたの‥‥」

等と言いつつ千尋はへばりついている坊と一緒に店の中へと入っていった。

店の中に消える瞬間、坊がハクをちらっと振り返って「べー」と舌を出す。

「‥‥‥‥‥!」

いつ殺してやろうか、等と物騒な事を思いつつ、ハクもその後に続いて入っていったのだった。






「この布地がいいかなー。うーん、同じ値段ならこっちかな‥‥」

女の子らしい洞察力を発揮して、千尋は二つの反物を見比べている。

「あんまりつやつやしてたらダメかなぁ‥‥」

母親の仕事に全く興味を持たない坊は、千尋がどうして悩んでいるのかがわからずキョトンとして見ている。

「坊はどっちがいいと思う?」

いきなり話を振られてうっとつまり、坊は冷や汗を垂らして布地を見比べた。

ざらざらした肌触りの布地と、やや光沢がある布地。

どちらも色は希望に叶っているが、用途によって使いやすくも使いづらくもなる。

ここでかっこよく答えて、千尋の信頼を得たいところである。

「え‥‥ええと‥‥」

「こっちの方がいいよ。水分をよく吸い取るし、実用的だ」

坊の頭上から低い声が振って来て、ざらざらした方の布地をすっと指さす。

「そぉ? じゃうそうしよっ」

いそいそと光沢ある布地の方を返しに行く千尋を唖然と見送り、坊は視線を上に向けた。

頭3つ分は高いところにあるハクの顔を凝視する。

「‥‥‥なにか?」

しれっと答えるハクの足を思いっきりかかとでふみつける。

「★※%▲□◎〜〜〜〜!!」

思いっきりつま先を踏みつけられたためか痛みにもんどりうつハクをほったらかし、坊は「セン〜〜〜」と甘えた声を出して走っていった。

後には痛みでうずくまっているハクが残されるばかり。

「あれ? ハクは?」

「他に見るものがあるからって」

そう言い訳をして千尋を連れていく坊の声を聞きつつ、ハクは心の中で呪詛を吐いていた。

―――――――絶対に、コロス!!








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