仁義なき闘い
その2

36000HIT キリ番作品







布地屋で買い物を終え、次にやって来たのはいわゆるアクセサリショップ。

「ちょっとだけ。ちょっとだけ、いいでしょ?」

甘えるような声でおねだりする千尋に、ハクは苦笑した。

「ちょっとだけだよ。あまり長居をすると仕事に間に合わなくなる」

「うん!!」

嬉しそうにぱたぱたと中に入っていく千尋。

その後を追うように入って行こうとした坊の首根っこを、ハクはむんずと掴んだ。

「坊にはお話がありますからこちらへ」

「わわっ、放せ、ハク!!」

そのまま坊を横抱えに抱えてハクはすたすたと歩いていく。



ややして。

「‥‥??? あれ? 二人とも何処いったんだろ?」

千尋がふと外を見た時には、通りには二人の姿はなかった。








あれこれ迷ったあげくペンダントを一つだけ買って出てきた千尋は、立っているハクに気がついて駆け寄った。

「お待たせ! ‥‥あれ、坊は?」

「用事があるそうだよ」

「用事? ‥‥‥ふうん」

「それより千尋。早く戻らないと皆準備を始める頃だよ」

空を見ると、太陽が傾きかけている。

「わっ、大変!! 早く戻らなきゃ!」

坊の用事は一体何か――――という疑問は、仕事に遅れるかもしれないというハクの言葉で全部吹っ飛んだ。

「さ、手を出して」

ハクが手を差し出す。

千尋はその手を素直に握りしめた。

「走るよ。ついてきて」

「うん」

片方の手で荷物をきゅ、と抱きしめて、千尋はハクが導くがままに走り出した。








さて。

坊が油屋にたどり着いたのは、油屋が開店して3時間以上もたった後だった。

「ど、どうなされたのですか、そのお姿は!!」

父役が青ざめた顔で坊を出迎える。

服はぼろぼろで泥だらけ。

髪は焼けた後かアフロヘア状態。

腕や足は擦り傷切り傷でいっぱい。

およそ経営者の息子としての姿ではない。

「‥‥なんでもない!」

坊は不機嫌な様子で、ずんずんとそのまま自室の方へと向かっていく。

そして。

廊下を曲がったところでハクとばったり出会った。

「!!」

ハクは一瞬びっくりした様子で立ち止まったが、すぐに不敵な笑みを浮かべた。

「お帰りなさいませ。遅いお帰りですね?」

「‥‥‥誰のせいで遅くなったと思ってるっ!」

「さぁ?」

しらばっくれるハクにゴゴゴゴゴゴ‥‥と坊の体からオーラが立ち上る。

喧嘩だ喧嘩だとうおーさおーするギャラリーの向こうから。

「あっ、坊。やっと帰ってきたのね! おかえりなさい!! ‥‥どうしたの、その格好?!」

千尋が顔を出した。

「ああ、ちょっと転んだらしいよ」

すかさずハクが坊の手をとり、千尋からは死角になるような位置へと坊を引っ張り込んだ。

わめこうとする坊の口に、すっと魔法でジッパーをかけてしゃべれないようにする。

「今から手当してくるから、千尋たちは仕事に戻りなさい」

そう言うが早いか、ハクは口をもごもごさせている坊を引きずって歩いていってしまった。

千尋や従業員たちはそれを唖然と見送るだけ。

「‥‥‥千、大丈夫かな‥‥坊様は」

「‥‥‥さぁ‥‥」

おねえさまの言葉に、千尋はただそう返すしか出来なかった。






湯婆婆の元に戻った坊がぼろ雑巾のようになっていたのは必然のことで。

しかし「誰にやられたか」というのを頑として口にしない坊に、ついに湯婆婆の方が根負けしてしまったらしい。

坊がリベンジに出たかどうかは、次の日から暫く続く油屋のにぎわいでわかる。

一週間ほど、油屋では「懲りないなぁ‥‥」というため息がもらされる事になった。





END
36000キリ番作品です。甘々‥‥‥のはずが、なぜか仁義なき闘いに。書いてて楽しかったですけど(笑)。坊がとってもかわいそうな事になっているので誰か坊に愛の手を(爆)。




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