天壌無窮
その2
86000HIT キリ番作品
獅子座流星群が降るのは18日の夜から19日の夜中にかけて。 本来ならば月曜日が学校なので家に戻らなければならないのだが、その日は湯屋から学校に直接向かう事にしていた。 ので、仕事が終わったあと、千尋は早速防寒の為のコートやらマフラーやら手袋やらを着込んで、重装備で玄関に現れた。 「‥‥千尋‥‥その格好はちょっとやりすぎじゃないか?」 それに対してハクはいつもの水干姿。 「ハクは寒くないの?」 「そんなに寒くないよ? 千尋こそ‥‥まだ真冬でもないのにそんなに着込んだら、あとが大変だよ?」 「いーのっ。女の子は冷えが大敵なんだから!」 「分かった分かった‥‥‥」 そんな話をしながら湯屋を出て、歩く事10数分。 「ここだよ」 ハクが連れて来たのは、雨が降れば海になるあの大平野だった。 今は雨も降っていないので、あたりには何もない。 ちょっと向こうに海原電鉄の駅が見えるくらいだ。 後ろを見れば湯屋があって。 でも前にも右にも左にも、あるのは地平線だけ。 空を見上げれば、宝石箱をひっくり返したという表現では足りないくらいの、たくさんの星々。 「‥‥‥‥‥すご――――い‥‥」 上を見た千尋は暫くぽかんと見つめたあと、ようやくそれだけを口にした。 「‥‥凄いね」 ハクも言葉がない。 異世界の空は、今人間界の空を映しだしている。 まだ河の主だった頃見た人間界の空はくすんでいて、ひときわ目立つ星がぽつぽつと見える程度だった。 本当は、こんな空が続いているのだ。 「首痛いから寝っ転がって見ようよ」 言うが早いか、千尋はその場にころんと転がった。 ――――もしかしなくても、きっと千尋が女で、私が男だというのを忘れているんだろうな。 苦笑しつつ、同じように寝転がる。 そうすると、すぐに星空が視界に入って来た。 手を伸ばせば―――――もしかしたらつかめるんじゃないか、そんな心地さえしてくる。 「あの星はねー‥‥点に見えるけど、実は一つ一つが太陽以上に大きいんだって。あまりにも遠いから点に見えるだけで。一番近い星にだって行こうと思ったら、光の早さで3、4年はかかるんだよ。ロケットで行こうとしても、50年以上はかかっちゃうくらい、遠いところにあるの」 千尋が指さす。 「ほら、アレだよ」 「あの、白い星?」 「そう。私たちがいる星は、宇宙の中にある小さい小さい星でしかなくて‥‥‥ほかにもたくさん、数え切れないくらいの星があるの」 ハクには千尋の言っている事は半分も理解出来なかった。 が。 空の向こうがそれだけ広いのだという事だけは分かる。 空の中を何度もとんだ事があるハクだから、それを知っている。 「あっ!」 つ―――‥っと、星が流れた。 「流星群だ!」 という言葉が終わらないうちに、また次が続けて流れる。 また次が。 1時間に300個は流れる、という友人の言葉が頭によぎる――――。 けど、今のはどう見ても、一秒に1個から2個だ。 さぁぁぁっ‥‥と空から、星の雨が降ってくる。 「すごい‥‥!!」 あとからあとから、星が降ってくる。 「ハク、見てる? すごい、すごいよこれ!」 「‥‥見てる。凄いね‥‥」 無限に続く空の向こうから、きらめく星が降ってくる。 「これって、空の神様のプレゼントかもしれないね」 いきなりそんな事を言いだした千尋に、ハクは思わず吹き出してしまった。 「ハク〜〜〜、何で笑うのっ!?」 「ごめんごめん、いや‥‥ウチュウとかタイヨウとかいわゆる「科学的」な事を言ったかと思うと、いきなり「空の神様」なんて言葉を使ったりして‥‥面白いなと思って」 「も〜〜‥‥だってそう思ったんだから、仕方ないじゃないっ」 ぷん、とむくれたらしい千尋の手を、横になったまま握る。 千尋が体を緊張させるのが分かった。 「ごめん。‥‥ほら、また流れたよ」 ハクがあいている手で空を指さす。 「‥‥でも、本当に空の神様の贈り物かもしれないね」 こんなに綺麗なのだから。 ハクの言葉に、千尋は小さく「うん」と言葉を返した。 星はつきる事なく 二人の上に降り注ぐ。 それをハクと千尋はいつまでも見つめていた。 月曜日。 「おぁよ〜〜‥‥」 すっかり寝不足の様子で学校に現れた千尋を、ずずぃっと友人たちが取り囲んだ。 「な、なにっ!?」 「流星群、見たんでしょ?」 「何処で見たのか、今日こそとっくりと聞かせて貰うわよ〜?」 「今度は逃げられないからね?」 千尋の受難は、まだ始まったばかりだった。 END |
遅くなりました(汗)。86000キリ番作品です。獅子座流星群をテーマにっ! という事で遅ればせながら書いてみました。ほんのりハクがブラック風味ですので一応ブラックにしてありますが‥‥本当はグレーかも(爆)。天壌無窮というタイトルはリクしてくださった方からの提案デスv |