Twins
その2


240000キリ番作品






「おや、来たね」

湯婆婆はあの頃と変わらず書類がうずたかく置かれた机に座っていた。

「今回客として来るなんてねぇ……少しは出世したってことかい」

なんの用なのかが量れない千尋は、不安な様子で子供達をぎゅうと抱きしめる。

「その子があんたたちの子かい」

「……ええ、そうです」

ハクは妻と子をかばうように立ち、淡々と告げた。

「ふうん……」

暫く湯婆婆は手を頬に当てて何か考えていたが、やがて視線を千尋の方へ―――彼女が抱いている子供達へと向けた。

「その子供たち、どちらもハクの血を継いでるからか、強い魔力を感じるね」

「……それが、何か」

「もう少し大きくなったら魔力のセーブの仕方を教わらないと、いずれ暴走させる事になるよ。人間界はただでさえ魔力の安定が難しいところだからねぇ……」

「え……」

声をあげたのは千尋だった。

「そ、それって……二人とも、ですか?」

「そうさね。特に女の子の方が魔力は強そうだね」

ハクと千尋は押し黙り、何も返事を返さなかった――――いや、返せなかった。









「どうしよう、ハク……」

部屋に戻ってきてからもずっと黙ったままのハクに、千尋はおずおずと話しかけた。

「…あ、うん……そうだね……。何の力もない、とは思わなかったけど……」

湯婆婆がわざわざ呼びつけるくらいである。

かなり離れた最上階にいても感じる何かがあったのだろう。

「普通の子として育てるつもりだったのに……どうしよう……」

千尋の言うことももっともだし、何より千尋の両親が理解出来ないだろう。

「……そうだ」

ハクはあることを思いつき、千尋に向き直った。

「銭婆に相談してみよう」

「え? 銭婆のおばあちゃんに?」

「ああ」

暫く考えていた千尋もそれしかないと判断したのだろう。

「そうだね。おばあちゃんのところに行こう」




次の日、湯屋へと繋がる橋のたもとから、空へと舞い上がる白い竜の姿があった。





「………全く、おまえらもあの二人の子供として生まれて来たのが不運だったかもな」

双子の面倒を頼まれたリンが、部屋に面する廊下に座り込み、そのまま空を見上げてつぶやいた。












沼の底駅から少し歩いたところにある銭婆の家。

着いた二人を出迎えてくれたのは、あのカオナシだった。

「……あー…」

大きく成長した千尋を見て少なからず驚いたような様子のカオナシだったが、快く二人を招き入れてくれた。

「久しぶりだね、千尋、ハク」

そこにはあのときと全く変わらない銭婆の姿があった。

「大きくなったね、千尋……今じゃ母親だなんて、信じられないねぇ」

「そ、そうかな……?」

銭婆は二人に座るように言うと、カオナシにお茶を出すように指示を出した。

それから自分も席に座る。

「で……今日は何の用で来たんだい? 世間話をしにわざわざこんな田舎まで来る訳はないだろう」

ハクと千尋は顔を見合わせて――――そしてハクが口を開いた。

「実は―――――」






話を聞き終わった銭婆は、「何だい、そんな事かい」と明るい声で答えを返した。

「今はまだ無理だけどね。少し大きくなったら修行をさせればいい」

「修行……?」

「そう。それまでは……そうだねぇ」

銭婆は立ち上がり、部屋の隅にあるクローゼットまで歩いていくと、なにやら探し始めた。

「…これがいいかね」

銭婆が出してきたのは、昔千尋が貰ったのとよく似ている髪留めだった。

「髪留め…?」

「まだ小さいうちならこのお守りが効くだろうね。これをつけておくといい」

千尋は二つの髪留めを受け取ると、それを大切そうに両手で包み込んだ。

「有り難う、おばあちゃん……」

銭婆は優しく微笑みを返した。

「言葉が話せる年頃になったら私のところに連れておいで。面倒を見てあげるから」

「はい! ありがとう……」

その時、カオナシがいい香りのするカップをトレイに乗せて運んできた。

「さ、今日は良いお茶が手に入ったところでね……急ぐんでなければゆっくり味わっていきなさい」

ハクと千尋は「はい」と返事を返し、カップを受け取った。










湯屋を去る日。

「…じゃ、次はもうちょっと大きくなったこいつらを連れて来るって事だな」

「うん。その時はまたこの湯屋に泊まらせてもらうからね」

リンは双子の顔をのぞき込んだ。

「こいつらが昔の千くらいになるのも早いんだろうな」

珍しく起きたらしい千早と千鈴は、不思議そうに自分たちをのぞき込んでいるリンを見つめている。

「そうしたら、リンさん……昔の私の面倒みてくれたみたいに、この子たちにも優しくしてくれる?」

え、とリンが千尋を見る。

千尋は真剣な顔でリンを見つめていた。

「……そうだな」

出会ったばかりの千尋は何も出来ない、足手まといの子供だった。

でもすぐに慣れて、リンも一目おく存在になった。

子供たちもそうだと信じたい。

「………その時になってみなきゃわかんねぇけど、きっとそうするだろうな」

とたん、千尋は安心したように微笑んだ。

「良かった」















トンネルを抜けると、そこは人間界。

後ろを振り返っても、もうあの異世界は見えなかった。

「……次に行く時は、この子たちがもっと大きくなってからだね」

――――その時にどうやって説明をすればいいのだろう。

自分が半分人間でない事も説明しなければならなくなる。

さっきから千尋が思い悩んでいるのはその事だった。

それをハクに告げると、ハクは微笑んで千尋の肩を抱き寄せた。

「……その時に考えればいいことだと思うよ。今から千尋が悩むことはない」

「……そうよね」

「さ、帰ろう。お父さんたちが待ってるよ」

「うん」

2人は――――双子も入れると4人は、家の方向へと向かって歩き出した。








END


240000キリ番作品です。遅くなってすみません。前からの続きになりますね。双子の姉弟「千鈴」と「千早」は名前つけるのに苦労しました……私とにかく名前を付けるのにとても悩む方でして……この名前に決定するのに実に2週間………(汗)。何でこんなに悩むかなぁ……。
双子はまだ赤ん坊なので全然目立ってませんが、いつか目立つ話も書きたいものです。




BACK             HOME