Happy Wedding
その1

2002年 1キリ番作品







「ねぇ千尋」

晩ご飯後のティータイム。

何故かハクも一緒の晩ご飯であったが為に、千尋の隣でハクもつられるように母親の方を向いた。

ついでに言うと、母の隣でご飯を食べていた父も母を見ている。

「いつ結婚するつもり?」

その爆弾発言に千尋はおろか、ハクや父親すらも自爆してしまった。







「いきなり何なんだそれは!!!」

動揺しまくりの父親に、母親は涼しい顔。

「だって、千尋ももう今年で高校卒業でしょ。ハクくんとはそれこそもう5年6年のつきあいなんだし。ハクくんは今年21になるんだったっけ?」

「は、はぁ‥‥」

ハクは白い頬を微かに赤く染めている。

「千尋も19になるんだし、短大進学も決まってるんだし、いいんじゃない?」

「‥‥か、母さん‥‥‥!!」

千尋の方は口をぱくぱくさせて母を指さすだけ。

「ハクくんの方はどうかしら? ウチの千尋。まぁ器量はそんなに良くないけど気だては良く育てたつもりだけど」

「かーさーーーんっ!!!」

「ハクくんみたいな息子欲しいのよねぇ私」

ようするに、ハクと一緒に暮らしたいという理由で結婚を持ち出したらしい母に、千尋も父親もハクも逆らえない。

妙に緊張したティータイムに、誰もが押し黙るしかなかった。






「ごめんね、ハク‥‥」

見送りは玄関まででいいと言われた為に、玄関先で千尋はそうハクに謝った。

「ほら‥‥私、春から隣の県の短大に通うから、一人暮らしをする事になったじゃない。それでハクが来なくなるのをお母さんが寂しがってて‥‥‥」

「それで結婚を切り出したって事?」

「‥‥結婚したら、学生の間はハクは私の家に住む事になる‥‥そう思ったんじゃないかしら」

「なるほどね‥‥」

ハクは苦笑して髪をかきあげた。

その仕草にどきっとしてしまう。

この頃特に色っぽくなってきていると思うのは気のせいだろうか。

そのどきどきを隠すように胸を押さえつつ、千尋はハクを見上げた。

「‥‥そ、その‥‥ハク、迷惑‥‥だよね‥‥?」

「迷惑? どうして?」

逆に問い返されて、答えに困ってしまう。

「私は別に構わないよ。私がこの世界に戻ったのは千尋の為なんだから」

さらっと言われると、千尋の方が赤くなる。

「でも‥‥私は人間ではなく、神なのは‥‥千尋も覚えてるよね?」

「うん」

「神との婚姻は特別の意味がある‥‥だから、私と結婚するならば千尋は覚悟しなければならないよ?」

微笑んではいるが、ハクの目は決して笑ってはいない。

「竜神は嫉妬深いから‥‥一度愛した人間を絶対に手放そうとはしない。でないと、私は千尋を食らいつくしてしまう。‥‥それでもいい?」

いつの間にか近づいていたハクの瞳に吸い込まれるように、千尋はただハクの瞳を見つめていた。

「人間の婚姻とは訳が違う‥‥‥その覚悟が千尋にあるならば、いいよ」

深い翠色の瞳の中に、自分が映っている。

千尋は半ば酔ったようにこくん、と頷いた。

「私‥‥ずっとハクを待っていたんだもの。ハクだけが好き‥‥だから、他の人に心移すなんて考えられないよ」

ハクの表情がふっとゆるんだ。

「‥‥愛しているよ、千尋‥‥」

「ハク‥‥ん‥‥」

そっと合わせられる唇。

きゅ‥‥とハクの服を握りしめ、千尋は背の足りない分を補おうと背伸びした。

「‥‥ぅ‥っん‥」

いつもよりも深く重ねられてくる唇に、息苦しくなってうめき声をあげる。

それでもハクは千尋を離そうとしない。

ぎゅ、とハクの服を掴んでくいくいと引っ張ると、ハクはようやく唇を離した。

「‥‥大丈夫?」

「も‥‥もぉ‥‥びっくりするじゃない‥‥」

非難するように見つめる千尋の瞳は潤んでいて、ハクを誘っているようにも見える。

もう一度キスしたいという欲求をとりあえず抑えて、ハクはそっと千尋を離した。

「じゃあ、また明日」

「うん‥‥明日ね‥」

扉を閉じて出ていくハクを見送って、千尋は唇を押さえたままぼーっと立っていた。

余韻もおさまり、ようやく部屋に戻ろうときびすを返した千尋はぎくっと立ち止まった。

「ホントにアツアツねぇあんた達って」

母親が立っていた。

その近くに父親の姿はない。

「お父さんに見つかったら後がうるさいから、家の中ではほどほどにしときなさいね。結婚したらいくらでもやっていいから」

「あ、あ、あのねぇっ!!」

真っ赤になる千尋を後目に、母親は自分の部屋へと戻っていった。

自分の母親ながら、貞操のあまりの軽さに頭が痛くなる。

千尋は額を押さえた。











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