Happy Wedding
その2

2002年 1キリ番作品









雪が消え、桃がほころぶ頃。

最後まで渋っていた父親も渋々ながら同意し、二人の結婚式が執り行われる事となった。

とはいえど、まだ未成年で学生である千尋の手前、式は両親とごく親しい友人たちのみの出席。

披露宴も要らないが、旅行だけはするという事で話はまとまっている。

そして

「千尋、用意は出来た?」

ハクが扉を開けて入ると――――そこには真っ白な衣装に身を包み、花飾りのあしらわれたヴェールをかぶった千尋が座っていた。

ピンクを基調とした薄化粧をしているせいもあって、ハクがいつも知っている千尋ではないようだ。

「‥‥に、似合ってる?」

おずおずと訊ねてくる姿にいつもの千尋を見つけて、ハクはほっと息をついた。

「似合ってるよ‥‥綺麗だ」

そしてハクは手をさしのべた。

「行こう、千尋。皆が待っているよ」

千尋は立ち上がり、ハクの手をとった。

「うん‥‥いこう」









式は滞りなく終わった。

千尋の父がむせび泣いてしまって母親に諭されるという場面もあったが、指輪の交換も無事終わり(誓いのキスは父親が大反対したので却下となった)、千尋はようやく窮屈なドレスから解放されたのだった。

「ぷはー! ドレスは綺麗だけど、窮屈なのが難点よねぇ」

そそくさと私服に着替え、いつものように髪をポニーテールにするとようやく落ち着いた。

それを見計らったかのように、ハクが扉をノックしてきた。

「用意は出来た?」

「うん、出来たよ! でも新婚旅行って‥‥何処に行くの?」

「秘密」

ハクは悪戯っぽく微笑むばかりで、行き先を言おうとしない。

竜になればハクは飛べる訳だから、飛行機の手配とかは要らない。

だからハクにそこは全て任せていたのだが‥‥‥。

「用意出来たらおいで。ご両親にはもう行くと挨拶してあるから」

「あ、待って待ってーっ」

慌てて辺りを片づけ、手荷物を持ってハクの後を追う。

そのままぱたぱたと走っていくと―――ハクは人気のない式場の裏庭まで歩いて来た。

「ここから行くの?」

「そう」

誰もいない事を確認し、ハクはそのまま竜に身を変化させた。

見慣れた―――とはいえど、やはり圧倒される。

竜になると喋れなくなるハクが首をもたげて「乗れ」と合図している。

「判った」

ハクの荷物も全部手に持って体にまたがると、ハクはいきなり空に舞い上がった。

「きゃああああー!」

胃がひっくり返りそうな感覚に耐えると、体が安定した。

「‥‥はー‥‥ハク、びっくりさせないでよぉっ」

つんつん、と頭部をつつくが、ハクは知らんぷりを決め込んでいる。

「‥‥もー」

千尋はただハクに任せるしかなく、角を掴んだまま溜息をついた。






ゆさゆさ、と揺さぶられて千尋ははっと顔を上げた。

どうやらそのまま眠ってしまっていたらしい。

「そんなに背中に乗せた訳じゃないのに、熟睡出来るなんて‥‥さすが千尋だね」

ハクはとっくに人間の姿に戻って千尋を見下ろしている。

「あ、あれ‥‥? ここは?」

千尋は和式の部屋で座布団を枕にして眠っていたらしい。

――――何処かで見た事がある。

「‥‥ハク、ここってもしかして‥‥」

ハクはにこっと微笑んだ。

「油屋だよ」










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