Happy Wedding
その3

2002年 1キリ番作品







客として現れたハクと千尋を無下にも出来ず、湯婆婆は上客として二人を迎え入れた。

一度は従業員として雇ったものの、人間である事には変わりない千尋を再び迎え入れるという事で内心は複雑なものがあったらしいが。

しかしリンや釜爺を始めとする従業員たちや、坊はとても喜んでくれた。

「久しぶりだなー! ハクと結婚したって? まぁこんなちっこい頃から千はハク一筋だったからなぁ」

リンにそう言われて千尋は頬を赤らめる。

「‥‥坊が千を嫁に貰おうと思ってたのに。ハクに先を越された」

坊はハクと千尋が結婚したと聞いて至極不満そうだったが。

「でも坊と私はいつまでも友達だよ?」

という千尋の言葉ですぐに機嫌をなおした。

ここらへんがまだ子供である。

「風呂は勝手に使っていいぞ。ハクも千もここの事は知り尽くしてるだろうしな」

リンが気を利かせてか、坊や周りの従業員を追い出しにかかった。

「あ、そうそう」

去りかけたリンはひょいと顔を出した。

「今日の夜はだーれも来ないから、ごゆっくり。デバガメも来ないように見張りもつけようか?」

その言葉にハクも千尋もぼんっと赤くなった。

「‥‥見張りはいらん」

ハクのぼそっとした答えにリンは「了解」とだけ返して、ぴしゃっと襖を閉めた。

「‥‥‥‥‥‥」

「‥‥‥‥‥‥」

奇妙な静寂があたりに満ちる。

ハクと千尋は、今知り合ったばかりの恋人どうしのように向かい合って、正座していた。

「‥‥あ、あの」

千尋は真っ赤になった顔を上げてハクを見つめた。

「‥‥なに?」

ハクの方も赤くなっている。

この男にしては珍しく緊張をしているらしい。

「‥‥‥あの、これからも‥‥‥」

千尋はスカートを握りしめた。

「よろしくお願いします‥‥あなた」

”あなた”という言葉がどうしても言ってみたくて言ってみたものの――――そこで千尋の精神は限界に達した。

「い、い、今のっ、ナシ!! 聞かなかった事にっ、してねっ!」

あまりの恥ずかしさに顔を覆ってしまう。

その細い手首をそっと握って、ハクは手をどけさせる。

「‥‥‥千尋、私を見て」

羞恥で目が潤んだ千尋の目尻を、ハクの指がなぞっていく。

「私は千尋を守り、愛する事を誓う――――私の全てをかけて」

結婚式で誓ったようなカタチだけの言葉ではなく、ハクの心からの言葉。

「だから‥‥裏切る事は許さないよ、千尋‥‥‥」

誓いであり、呪縛でもある言葉。

千尋は自分の頬を撫でていくハクの手に、自分の手を重ねた。

「――――誓うわ。ハクとともにいる事を‥‥」

「‥‥‥命にかけて?」

こくっと頷く。

「――――命にかけて‥‥誓う‥‥ん」

千尋の言葉は口づけによって遮られた。

息苦しさに抵抗しようとする手は押さえつけられ、ただハクに身を任せる。

「‥‥はぁっ‥」

千尋がようやく新鮮な酸素を吸い込んで人心地ついた時には、彼女は既に畳の上に押し倒されていた。

「‥‥は、ハクっ!? ま、待って‥‥ま、まだ日も高いわよっ」

「そうだね」

「そうだね‥‥って、だ、誰か人が来るかわかんないじゃないっ」

「でも私たちは晴れて夫婦になった訳だし‥‥別におかしくはないよ」

羞恥心というものはないんですか―――――――っ!!!


という言葉を千尋が口にする前に、彼女の唇は再び塞がれて言葉は空気に溶けた。







「‥‥晩飯どうすりゃいいんだろな、あの二人」

「ハク様と、千のこと?」

「ああ。普通の膳でいいのかどうか聞いとくの忘れた」

「聞いてきたら? 千と一番仲良かったのはリンじゃん」

「‥‥それもそうか」

湯女の一人に言われ、リンはぽんと手を打った。

「じゃ行ってくる」

そう告げて、リンは二人に聞こうと歩き出した。






廊下をてくてく歩いていたリンは、ふと物音を聞いたような気がして足を止めた。

――――何か、聞こえる。

つつつっ‥‥と足を忍ばせて近寄り、障子に耳をつける。



「‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

ちょっと聞いただけで、大人の女性であるリンは中で何が行われているのかをすぐに理解した。

そのまますぐにきびすを返す。


――――ま、千とハクは晴れて夫婦なんだから、何をしようと夫婦間の問題だわな。




「‥‥‥この様子じゃ、晩飯は当分いらねぇな」

そんな事をぶつぶつ言いつつ、リンはその場を去ったのだった。










その後、千尋がへろへろになって風呂場に現れたのは、湯屋も終わるかという時間だった。

「‥‥‥先が思い遣られるなぁ、千?」

にやにやと笑いながら背中を流してくれるリンに、千尋はははは‥‥と乾いた笑いを漏らした。




――――誓いをたてたのは早計だったかも。


なんて事もちょっと頭によぎった、最初の夜だった。







END

2002年00001のキリ番作品です。ハクと千尋の結婚式を‥‥という事でした。で、二人の年齢を若めに(ハネムーンも有り)で現代の時間軸でというリクがあったので頭ひねってみました。現代で若い年齢で結婚となると、普通出来ちゃった結婚‥‥(バキ★)‥‥はちょっとまずいので(ウェディングが腹大きいのは問題だ)、イッちゃってるお母様にご登場となりました。妖しい雰囲気のシーンもありますが、そのものを書いていないので禁指定はしませんでした ヽ( ̄▽ ̄)ノ 皆様想像して下さいまし~~。




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