甘い誘惑
その2

8000HIT キリ番作品




ふわふわしてる。

でも体はとてつもなく熱くて、火が燃えている感じがする。

そう思っていたら、額が突然ひんやりとしてきた。

気持ちいい。

頬に触れてくるものも、ひんやりとしていてほてった体には心地いい。

頬に触れるそれを手でそっとつかむと、そっと指が開かされて絡められる。


「‥‥ん‥‥」

千尋は心地よさに声を漏らした。

体が熱いから、冷たくてひんやりしているものが体に当たるのはとても気持ちいい。

もうちょっと体冷やしてくれてもいいんだけどな。

そしたらサイコーなんだけど。

ぼんやりした頭でそんな事を考えつつ、千尋はうとうととまどろんでいた。



すっ、と。

体がなんか心許なくなった。

体を縛り付けていたものから解放された感じ。

なんだろう?

なんだろう??

なんか

なんだかいやな予感がする。


まだまだ重い瞼にすべての力をこめ、千尋はようやく目を開けた。






まず最初に入って来たのは澄んだ翠色の瞳。

その色合いに思わず見とれ、目をぱちくりさせる。

「ああ‥‥目が覚めた?」

どことなく残念そうな響きを醸し出すその声の持ち主は――――ハク。

「‥‥ハク?」

そう呟いて千尋は目をぱちぱちと瞬かせてハクを見つめた。

「慣れない酒を一気にあおるから中毒になりかけたんだよ。気分はどう?」

気分はどう‥‥という以前の問題として。

どうしてハクの顔がこんなにアップになってるんだろう。

千尋は手に力を入れようとして――――自分の手がハクの手を握りしめている事に気がついた。

おそるおそる――――下に視線を向ける。



向きだしの肩が視線に入った時点で水干は脱がされているだろう事は覚悟していたが。

腹巻きの紐は緩められ、下半身を覆ういわゆるズボンの紐も緩められて、ちょっとでも下げられたらもう全裸に近いような状態と紙一重。

そしてこの状況は。

どう考えてもハクにのしかかられているようにしか見えない。

千尋が何も答えないのにハクは少し眉をひそめた。

「まだ体が熱い。完全に酒気が抜けてはいないようだな」

そういうが早いか、ハクは慣れた手つきで千尋の腹巻きを取り去った。







きゃああああああああああああっっっっっ


という千尋の絶叫が部屋に響き渡る。

「ハクのえっち――――――っっっ!!! ばかー!!!」

耳元で大絶叫を聞いてしまったハクは耳をおさえて頭の中でまだ反響しているらしい音と戦っている。

千尋は千尋で完全に隠すものもなくなりあらわになった胸を隠しつつにじにじと下がる。

「汗をかいているから着替えた方がいいと思っただけなんだけど‥‥」

まだ耳をおさえつつ言うハクに、千尋はぶんぶんぶんぶんとちぎれるくらい首を振った。

「かいてないかいてないっ! 着替えなくっても大丈夫なの〜〜〜!!!」

まだアルコールが残っているのに首を盛大に振ってしまったものだから、頭がクラクラしはじめている。

しかしここで倒れたらそのまま組み敷かれてきっとあーんなこととかこーんなこととかされるっ!!

(現代っ子らしくそちらの方面の情報だけは妙に頭に入っている千尋であった。しかし具体的に何をするかというのがわかっている訳ではないあたりまだ子供である)

「いや、肌が汗ばんでいるのはわかってる。着替えた方がいいと思うが?」

なんでそんな事知ってるんでしょう!?

何となくにこにこ微笑みながらじりじりと近寄ってくるハクに、千尋はお尻でにじにじとさらに下がる。

しかし下も半分脱がされかかっている為に、これ以上お尻で逃げようとするとズボンまで脱げてしまう。

絶体絶命である。

「どうして逃げるんだ、千尋‥‥‥」

悲しそうに言うハクに一瞬ほだされそうになるが、自分の貞操を守る為に敢えて厳しい顔をつくってみせる。

「だってっ‥‥わ、わ、わたし、何も着てないも同然じゃないのっ! 恥ずかしいよぉ‥‥」

「ああ」

ハクはそんな事か、と微笑んだ。(その微笑みはかなり怪しい)

「すぐに恥ずかしくなくなるから安心しなさい」





言うに事欠いて

そんな事を言いますか―――――!!!


あまりのショックに一瞬気が遠くなりかけるが、何とか理性で踏ん張る。

ここで意識を失ったら以下略。


「‥‥千尋」

そんな甘い声で囁かれたら、色気にはあんまり縁のない千尋でもくらっとくる。


いつの間にかすぐ近くまで近寄っていたハクの手が千尋の手首をつかむ。


あああ、おかーさーん! 先立つ不幸をお許し下さーい!!(何のこっちゃ)









「はいはい、そこまでそこまで」

いきなりがらっと開け放たれたふすまの向こうには

「リンさん!!」

千尋にとっての救いの神、リンが立っていた。

「まったく、酒煽りすぎてぶっ倒れたって? 相変わらずトロいよなぁ千は」

そんな事を言いつつ、すぐそばにいるハクはおもいっきり無視して、リンは千尋の腹巻きを手にとると千尋の胸に押し込んだ。

「もう仕事も上がりだから部屋で休もう。明日になりゃ気分も良くなるさ」

これ幸いにとリンに飛びつく千尋を抱きかかえるようにして、リンは部屋を出ようと歩き出した。

「‥‥リン」

ハクのひくーい声にリンの足が止まる。

「そなた‥‥わざとだな?」

にっこり微笑む(しかし目は笑っていない)ハクに、リンはこれまたにっこりと微笑みを返した。

「甘いんだよ。そう易々と可愛い妹分を渡してたまるもんか」

そう言ってぴしゃりとふすまを閉め、リンと千尋は行ってしまった。






その後のハクの機嫌がすこぶる悪かったのは言うまでもない。


リターンマッチが行われる日は、きっと遠くはない。



END


8000キリ番です。ブラックハクと千尋のギャグで‥‥という事で、少年漫画系お色気物語(謎)を狙ってみました。ハクの本当のライバルは坊でもカオナシでもなく実はリンかもしれませんよねぇ‥‥同性という強みはかなり大きいかと(笑)。リターンマッチの日は近いです(爆)。




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