時を越えて
その4

320000HIT キリ番作品







連れて来られた処に立つのは全長が20メートルはあろうかという大きな木だった。

木の幹には縄が張り巡らされ、神聖なものとしてあがめ奉られているのが分かる。

だがその木から感じられるのは今にも消えそうな気配だけだった。

「死にかけてる―――分かる」

もしここでこのご神木が枯れてしまえばきっとハクは生まれてこないんじゃないだろうか?

そんな思いがかすめ、千尋は身を震わせた。

「さ、時間がありません。……別の次元のあなた達がこうして揃う事も時空をゆがめる原因の一つとなります。この木に手を当てて」

百襲姫神に促され5人は木に近づくと幹に手を当てた。

「目を閉じて深呼吸を繰り返して」

言われるように深呼吸を繰り返す――――と。

ただ単にごつごつしているだけの筈の幹が、手の平を通してほんわかと温かくなって来た。

「温かい……」

「ハク達の力をご神木に譲り渡しているのです。ミヤ達はそれを増幅しご神木の中で眠る彼を包み込んでいる」




遠くで何処かせせらぎの音が聞こえてくるような気がする。

(―――あ、これはコハク川の流れの音だ………)

ご神木のなかから聞こえてくるその音は、千尋にとってとても心地よい音だった。






百襲姫神の視線が咲耶姫に向けられる。

「咲耶様」

咲耶姫は頷いて神木へと近づいていった。

「―――我が名においてお頼み申し上げる。大地に眠る神々よ、眠る精霊へ力をお貸し願いたい」

咲耶姫の体が光に包まれ、それに呼応するように千尋やハク達の体も、神木も光に包まれていく。







「……ああ、彼が目覚めた…」

百襲姫神の声にはっと目を開ける。

ご神木と重なるように、黒髪を束ねた一人の青年の姿が見えた。

「精霊さま…!」

ミヤの声が聞こえたのかその青年がふっと目を開ける。

「暫し時間が経てばしっかりと実体化出来るようになるでしょう」

アニエスやディミトリスもホッと安堵の息を漏らす。

「もう大丈夫でしょう。ですがいずれはこの木も枯れ、そうして命はハクへと受け継がれていきます……」

辺りの景色が流れはじめ、千尋は慌てて目を再び閉じた。

「百襲姫神さま…?」

「ディミトリスからご神木へ、そしてハクへと命は受け継がれていきます。出会う時、出会わない時、色んな時代がありますがこうしてあなた達は何度も出会っている―――その奇跡を大切にして下さい」

千尋の耳に最後に聞こえて来たのは、そんな百襲姫神の言葉だった。

















はっと気がつくと、千尋は廊下のど真ん中にへたり込んでいた。

途端に耳に湯屋の喧噪が聞こえて来る。

「―――え…?」

「気がついたかい、千尋」

視線を向けるとハクが千尋を心配そうに見つめているのが見えた。

「大丈夫……戻って来た、の…?」

あれは夢ではなかったのか―――そんな事を思いつつ尋ねる。

「ああ、戻れたようだよ。咲耶姫に確認をしたけどあれはちゃんとあった出来事のようだ」

辺りを見回しても咲耶姫の姿はもう何処にもない。

「咲耶様は……?」

「さっさと自分の部屋に戻られたよ。相変わらず気ままな方だからね………」

だが、咲耶姫が共にいてくれたからこそ救われた部分も多い。

きっとあの時代も咲耶姫にとっては実際に生き抜いて来た時代の筈。

「……後で御礼を言わなくちゃ」

ハクに言ったらきっと「言わなくていいよ」と言うだろう。

咲耶姫から何かして貰った訳ではないのだが、それでも御礼を言いたい気分だった。

「あの後、ご神木は何処まで生きたんだろうね」

「さぁね……私が存在し始めてから随分と時が経つから、せいぜい数百年といったところだろう」

それでも、あのミヤという少女が生きている間はあの時代のハクは生きている事が出来た訳だ。

それを思うと―――ちょっと嬉しい。

「ね、ハク」

「ん?」

千尋はどうしようか、と思いつつも口を開いた。

「ずっと、傍にいてね。こうやって出会えるのは奇跡だって百襲姫神は言っていたから」

ここで別れたら次に出会えるまでに一体どのくらいの時間を有するのだろう。

だからこそ今出会えた事を感謝したい―――千尋はそんな事を思っていた。

そんな千尋の気持ちを分かったのだろう。

ハクは微笑みを浮かべた。

「いるよ、ずっと」










部屋で咲耶姫は着物を着崩して、のんびりとくつろいでいた。

「―――まさか会うとは思わんかったの」

百襲姫神は人間の姿で何度も転生を繰り返す巫女神――――今は一体何処にいるのかは分からないが、何処かでこの世を見守っているだろう。

あの時代は自分もまだ力も強く、人間社会を完全に掌握出来る程の力を宿していた。

「―――詮無いことよ」

色々と思う事はあるが、咲耶姫は全てを飲み込むように酒を飲み下した。




END

お待たせ致しました、久しぶりの連載となりました。今回のはタイムスリップをして過去の自分達に逢うというリクエストでして、平安時代とギリシャ時代は入れて欲しいという条件がついておりました。そのほかにも本当はリン達も出して欲しいとの事だったんですが、収集がつかなくなってしまった為にハクと千尋だけと相成りました、すみませんm(_ _)m
百襲姫神は日本書紀等にはあまり出てこない女神でして、実在した天皇の王妃ではないかという釈もあるようです。色々調べてはみたのですが調べ切れませんでした。ただ巫女としての役割を担っていたらしく、色々な予言をしたり力を発揮したりしたらしい……というのから、タイムスリップしたのは彼女の為という事をでっち上げてみました。人間の姿で転生を繰り返すというのも私が作った設定ですので信じないように(汗)。
咲耶姫が出てきたのはほんと〜〜に私の趣味です(^^; ハク以上に力を持つ者で好きなように動かせるのは彼女くらいしか思いつきませんで。




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