時を越えて
その3

320000HIT キリ番作品








「ディミトリスは私が名付けた名前で、本名は知りません。でも……本当に良く似てる。顔かたちは違うけど…なんて言うか、雰囲気が良く似てるんです」

この白いドレスのデザインを何処かで見たことあるな、と思っていた千尋は、ようやくそれが古代ギリシャのものである事を思いだしていた。

「私って古代ギリシャの時も生きていたんだ……なんだか不思議」

「ディミトリス、という人も恐らくはハクさまのことではないかと」

ミヤの言葉に千尋はえっと振り返った。

「もしかして、ミヤの傍にも……?」

「はい」

ミヤはにっこり微笑んだ。

「この裏にご神木と言われる大木があるのですが、その木に宿る精霊様なのです。大木から長く離れられないのでここには来られないのですけど」

「そうなんだ……って事はそのディミトリスって人も精霊とかそういう人なんだろうな」




少女は自分をアニエスと名乗った。

千尋達の世界でいうネメアの辺りに住んでいたようで、ディミトリスと呼ぶ青年といた処突然立ちくらみのようなものを感じ意識を失ってしまった。

そして気がつけばここにいたのだ。

「やっぱりディミトリスを探さなければ戻れないって事よね……」

アニエスを見つけ出した事で帰れる、と期待をしていた千尋は残念そうに呟いた。

「そのディミトリスが私だと言うならば私が探すのが一番手っ取り早いだろう。この時代にもいる筈の私とやらの力を借りられればいいが、木の精霊ならばこの場から離れない方がいいだろうし」

そう言いつつハクが立ち上がった。

「え、ハク?」

「私が探してくるよ。千尋はここで待っておいで」

「え、でも、私も行った方が……」

「すぐ戻るから」

それだけ言うとハクはきびすを返して歩き出し、そのまま部屋を出て行ってしまった。

「あ〜……」

「相変わらずせっかちな者よのぅ」

まったくだ、と咲耶姫の言葉に内心同意をしてから、千尋はアニエスとミヤに向き直った。

「……えー、と。ハクが帰ってくるまでお話でもしてよっか」

その物言いが途方に暮れたような感じであったせいか、アニエスが吹き出す。

「も〜笑わなくったっていいじゃない」

「すみません、つい」

姿形は違っても「自分」である事に変わりはない。

その気安さがあるのか、3人は会って直ぐにうち解けていた。

きゃわきゃわと賑やかに話す3人から視線を逸らし、咲耶姫は百襲姫神と近寄った。

「時を越えて迷い込んだ―――いや、お主がここへと導いた理由は、一体何じゃ?」

百襲姫神は唇を微かに笑みの形にゆがめた。

「わたくしが呼んだという事……気づいておられましたか」

「昔よりは力が衰えたとて妾とて神。気づかぬ道理はないであろ」

ちらり、とミヤの方へと視線をやってから、咲耶姫はまた百襲姫神に目を戻す。

「―――ご神木のことか?」

「……はい」

しっかりと頷いて百襲姫神は真実を告げる為に口を開いた――――。









「……あ」

千尋は何気なく水干の胸元を探ってみて思い出したように声をあげた。

「どうかしましたか?」

「もしかしてこれ、あなたのじゃない?」

この平安に来てすぐの時に拾ったもの。

あの時は気が動転していて分からなかったが今にして思えばあれは――――。

「……あ!」

案の定、千尋が取り出した銀のネックレスを見た途端、アニエスが声を上げた。

「ディミトリスが身につけていたものです、それは。一体何処で……?」

「ミヤが私を拾ってくれたあたりだから……」

「この都から見れば南の山のなかです」

ミヤが千尋の言葉を続ける。

「という事はディミトリス様があの近くにいるというのは確実ですね……」

千尋がアニエスにネックレスを渡した時、向こうの方で音がした。

「帰ってこられたようですね」

ミヤが立ち上がり出迎える為に出て行く。

ミヤが出て行ったのを見計らったかのように咲耶姫も立ち上がった。

「さて、我らもゆくぞ」

「え?」

百襲姫神も立ち上がる。

千尋とアニエスはただただ二人の女神を見つめるばかり。

「この近くにあるご神体に逢いに行くのじゃ。お主らも来い」

「ご神体って……この時代のハクの事ですか?」

「ええ。そこでこの世界にあなた方をお呼びした本当の理由をお話致します」

本当の理由、と言われても千尋とアニエスは顔を見合わせるだけだった。








「ディミトリス!」

ディミトリスは今となりにいるハクとは姿形は全く似てもにつかぬ容姿だったが、千尋にも確かにそれがハクだと分かった。

醸し出す雰囲気、気というものがハクと同じなのだ。

「良かった……このまま会えないかと思った」

アニエスが駆け寄るとディミトリスはその手を取って首を横に振った。

「ここにいる彼が色々と事情を話してくれたから、大体の事は分かったよ」

千尋はすすすっとハクに近寄り、耳打ちした。

「過去のハクってやっぱり神様か何か?」

「やっぱりっていうのが気になるけど……そうだね。精霊だそうだよ」

「そっか……この世界のハクもご神木だって言ってたから」

精霊や神と呼ばれる人にもやっぱり魂はあるんだ―――千尋は感慨を覚えていた。

そしてその傍に自分の存在が在るという奇跡にも。

「時代を越えても私とハクが一緒にいるって、何か不思議だね」

「そうだね……滅多にない偶然だと思う」

「皆様方」

そんな事を話していたハク達は、百襲姫神の声に視線を向けた。

「このままご神木の処へと向かいます」

その言葉を聞いて不安そうな表情になったのはミヤだった。

「精霊様に何か……?」

「ミヤも気がついていたでしょう。この頃彼が殆ど実体化しなくなっていたことに」

百襲姫神が歩き出すのに倣って皆も歩き出す。

「本来ならば彼はまだ生きるべき存在なのですが、理が狂い彼の力が失われてしまったが為、消えかけているのです」

「消える……!? そんな、それじゃ……っ」

「ですからこうして無謀だと思いつつ、あなた方を呼んだのです」

―――遙か時空を越えて遠くの者を呼び寄せてしまう程の力を持つ百襲姫神に、千尋は驚愕を覚えていた。

自分が知る神は幾人もいるが、これほどまでの力を秘めた者はいなかった。

「どうして我らを呼ぶ事に?」

ハクがもっともな問いをすると、百襲姫神は歩みを止めず視線だけを向けた。

「二人が揃って存在するのがあなた方だけだったのです。ご神木を蘇らせるにはあなた方の力が絶対に必要でしたから」

その言葉にハクと千尋、ディミトリスとアニエスは不思議そうに顔を見合わせるしか出来なかった。









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