力ある者
その6

Web拍手御礼作品








「下手に小細工をしても駄目だな。直接湯婆婆の部屋へ行こう」

足早に湯屋への道をたどりながらハクが話しかけて来る。

「ハウルの魔力が強すぎる。こちらに来たことにすぐに気がついたはずだ」

千尋はハクに遅れまいと足を動かしつつ、後ろをついてくる二人をちらりと振り返る。

「大丈夫かな」

湯婆婆のあの興味の持ちようがとても気になる。

怖いことを考えていなければいいのだけれど。

「いざと言うときは銭婆の力を借りることになるだろうね」

普通の人間なら問答無用で豚にされてしまう処だが、ハウルは悪魔と契約をしていたために普通の人間と気配が違う。

それが何かとんでもないことを引き起こさなければいいのだが。









後もう少しで湯屋へと渡る橋にたどり着く、という処でハクは立ち止まった。

「千尋は仕事のほうに行って。私が彼らを連れていってくる」

自分も行く、と言いかけて、千尋は思い直して頷いた。

こんなに暗くなっているのだから、他の皆はもう仕事に取りかかっている時間だ。

早く行かなければ兄役に怒られてしまう。

「分かった。それじゃまた後でね!」

「気をつけて」

いまいち事態が把握出来ないソフィーとハウル、そしてヒンはぱたぱたと駆けていく千尋を見送るばかり。

ソフィーはちょいちょい、とハウルの上着を引っ張った。

「……ね、ねぇハウル」

「ん?」

「……もしかして、あたし達がここに来たのって凄くまずかったんじゃない…?」

「まぁ、良くはないだろうね」

こともなげに言うハウルにソフィーのほうはさぁっと青ざめた。

「あたし、そこまで深く考えずに行くって言っちゃったの……どうしよう」

「大丈夫」

そう言ったのはハクのほうだった。

「こちらの世界に来ても姿が消えない。この世界に受け入れられたということだ」

ソフィーは慌てて自分の手を見たが、言われた通り特に何も異常は見られない。

「……本当だ、人間の気配が全くしない。不思議だね……精霊のような気配ばかりが感じられる場所なんて、初めて来たよ」

ハウルのほうはこの場所に感動を覚えたのかしきりと辺りを見回している。

「後でいくらでも湯屋の中は案内しよう。ともかく湯婆婆の処に行かなければ」

言い終わった途端、ハクの身体が光に包まれた。

「…!」

光に目がくらみ―――次に目を開けた時には、その場にはもうハクの姿はなく、一頭の白い竜の姿があるばかりだった。

「さ、行こう」

一度ハク竜の背に乗ったことのあるハウルがまず乗り、ソフィーに手をさしのべる。

「角を持つといい、身体が安定するから」

自分の前にソフィーを座らせてヒンを抱え込んだ後、ハウルがヒンを見つめてにっこりと微笑んだ。

「ヒンは覚悟しておいたほうがいいかもしれないよ。あれだけ食料を平らげてしまっては申し開きも出来ないだろうからね」

「ヒン!?」

途端に降りようと慌てふためくヒンをぎゅっと抱え込み、ハウルが「いいよ」とハク竜に声をかける。

ハク竜はそのまま湯婆婆がいる最上階目指して舞い上がった。











ハクがハウル達を運んだのは数ある湯婆婆の部屋の内の一つだった。

「私たちが来るのを待っているはずだ。行こう」

「分かった」

ここまで来るとソフィーもこの部屋の雰囲気が違う事が分かる。

ぴりぴりとした雰囲気に呑まれてしまいそうで、ソフィーはおずおずと歩き出したもののすぐに立ち止まってしまった。

「ソフィー?」

「……だ、大丈夫…」

サリマンの元を訪れた時だってこんなに緊張しなかった。

同じ「魔女」でもこれほどまでに違うのは、その湯婆婆という存在が人間ではないからだろうか。

「大丈夫だよ」

「あ…」

ハウルが引き返して来てソフィーの手を取り、ぐっと引っ張る。

その力の強さにソフィーはようやく歩き出す事が出来たのだった。