力ある者
その10

Web拍手御礼作品








仕事が終わるとつかの間の自由時間がやってくる。

千尋とソフィーも例外ではなく、リンも交えて和やかに雑談をしていた。

「残念だな、明日にはもう帰るなんて」

元々炊事洗濯等に慣れているソフィーは最初こそ道具の違いにとまどったが、一度理解すると手際は良く他の湯殿の手伝いをする程に重宝がられていた。

「千の最初の頃とは雲泥の差だぜ」

小さい頃の事を出されるとどうにも千尋は言い返せない。

今でもそうだがこういう仕事は得意ではないのだ、ソフィーの手際と比べるべくもない。

「その話はもう勘弁して欲しいなぁ……」

千尋がボヤくとリンとソフィーは笑い出してしまった。

「千、ソフィー」

お姉様の一人が二人に話しかけてくる。

「ハク様がお呼びだよ、すぐ行っとくれ」

「ハクが……?」

千尋とソフィーは顔を見合わせた。

「まさか、今から帰る…とか言うんじゃないよね……」

せっかくソフィーと再会出来たのに満足に話も出来ないまま帰るのは寂しい。

そんな思いを滲ませながら千尋が呟く。

「とにかく行ってみましょう? 話はそれからだわ」

「……ん、そうだね」

立ち上がる二人を見つめたまま、リンは心配そうに声をかけた。

「オレが一緒に行ってやろうか?」

「ううん、大丈夫。行ってくるね」

部屋にいる、という言葉に頷きを返して千尋が先頭に立って歩き出す。

(……なんだろ、何か嫌な予感がするなぁ……)

ハクと共に行動するようになって、千尋も何となくだが虫の知らせ的なものを感じる事があった。

きっとこの湯屋で働く事で元々持っていた能力が開花したのだろう、とハクは言ってくれたが、あまり嬉しくない事ばかりを当ててしまうので(明日抜き打ちテストがある……とかそういう類のものは良く当たる)、千尋にとっては嬉しくない能力だった。

(……ハクの身に何か起こってなきゃいいんだけど)

そんな事を思いつつ千尋は先に立って廊下を歩いていった。





一方。

「仕事は終わって義務は果たした訳だから、ハウル達は自分の世界へと戻った方がいい」

急かすように言うハクにハウルは不思議そうな顔をした。

「そんなに焦る事はないんじゃないか? 千尋とソフィーはまだまだ話したりないと思うよ、あの調子だと……」

「ここにこれ以上いるのは危険だ」

危険。

この清浄な地でそんな言葉を聞くとは思わず、ハウルの眉間が潜められる。

「湯婆婆のこと? 確かに野心的ではありそうだけど……」

「野心的、ね……」

ハウルの言葉にハクは苦笑を浮かべた。

「人間の価値観で考えればそうなるのかもしれないけど……」

言いかけてはっと辺りを見回す。

ハウルも感づいたのか表情を引き締めて気配をうかがう。

「―――っ! しまった!」

ハクが叫んだ瞬間、彼らの周りに光で描かれた魔法陣が浮かび上がった。

「結界!?」

あっという間に二人の周りは青白い光で満たされる。

ハウルが手でその光に触れると、うすい膜のような感触が手のひらに感じられた。

「……っ」

慌てて手を離す。

「どうした?」

「力が吸い取られる……この光、魔力を吸い取るようになってるんだ!」

ハクはおそらく上からこの様子を見つめているであろう湯婆婆の方を睨み付けた。

「……私の力もおそらく吸い取られるだろうな……」

「これでは出られないな……どうする?」

抵抗を諦めたのかハウルはその場に座り込んだ。

「……ここにやって来るのが誰かによって対処を考えよう」

―――きっとやってくるのは、あの子たちだろうけど。

不用意に千尋達を近くへと呼んでしまった事を悔やみつつ、ハクは溜息をついた。