力ある者
その11

Web拍手御礼作品







「どっ…どうしたのよ二人とも!!」

ハクが思った通り、やってきたのは千尋とソフィーの二人だった。

「……湯婆婆に先回りされたよ。魔力を封じる結界を張られた……中から破るのはかなり大変そうだ」

淡々とした調子で言うハクは何処か諦めもあるようだった。

「千尋、ソフィー。……銭婆の処まで行って来て貰えないか?」

「ぜにーば?」

初めて聞く名にソフィーが首を傾げた。

「湯婆婆の姉なの。そっくりなんだよ」

「千尋は何度か行った事があるから道を覚えている筈だし、銭婆は千尋を可愛がってくれているから彼女の頼みならば聞いてくれると思う」

結界のなかですっかりくつろいでいたハウルは話の方向が分かったらしく眉をひそめた。

「女の子二人だけで大丈夫かい? この世界って色々なものが住んでいそうなんだけど」

「電車に乗っていれば大丈夫だ。道を外れると色々なものが出てくるけどね」

敢えてその「色々なもの」というのには触れず、ハクは千尋へと向き直った。

「切符は番台蛙に言えばくれる筈だ。もし渋るようだったら私の名を出しなさい」

「うん、分かった……絶対、危ない事しちゃ駄目よ?」

これから湯屋を出て遠くまで行く千尋たちの事を思えば彼女たちの方こそ危ない場面があるやもしれないのだが。

それでもハクの事を心配する千尋にハクは頷いて見せた。

「分かっている。千尋も気をつけて行っておいで」

「うん、すぐに戻るからね!」

「ハウルもそこで大人しく待ってなさいね。ちゃんとハクさんの言うこと、聞くのよ」

「……何で僕にはそういう事言うわけ? 僕を信用してないんだな、ソフィーは……」

拗ねたように言うハウルにソフィーは腰に手をあてて溜息をついてみせた。

「あなた、自分の日頃の行動を知っていてそういう事言うのね? 人の言うこと全然聞かずに好き勝手やらかしてるくせに」

「う…」

やりこめられてしまったハウルの様子に笑みを漏らし、ハクは「大丈夫だよ」とソフィーをなだめる言葉をかけた。

「私がちゃんと見張っておくから。千尋の事を頼むね」

「ええ、分かりました」

―――もしかして、私も信用されてないのかしら?

憮然とした気持ちになりつつも心当たりがありすぎて言い返せない千尋であった。





「電車の切符? 何でそんなものがいるのだ」

案の定番台蛙は難色を示し胡散臭そうに千尋を見つめた。

「ハク……様から頼まれたんですけど」

「それ、坊が頼んだ仕事だ」

後ろから聞こえる声にはっと振り返る。

そこには8、9歳くらいの年齢に達した坊の姿があった。

「お、おぼっちゃまでしたか……それは失礼致しました! ほら、切符だ。大切に使えよ」

切符を受け取り、坊に視線を向けて廊下の隅へと歩いていく。

「有り難う、坊。助かっちゃった」

初めて坊を見るソフィーは不思議そうに視線を向けている。

「この娘がソフィーっていう娘か?」

「そうよ。私の友達なの」

「ソフィーです……えぇっと」

「坊と呼べ。……バーバがまた何かやらかしたらしいのは湯バードから聞いた。それで千が銭婆の処に行くのだろう?」

もう湯バードがそれを察知しているのか、と千尋は青ざめた。

「じゃもう湯婆婆も知ってるってこと……?」

「いや」

坊が首を横に振る。

「湯バードに言うなと口止めをしておいた。坊しか知らない」

「そう……それなら良かった」

切符を握りしめ、千尋が歩き出す。

「千、坊もついていく」

その言葉に慌てて千尋は立ち止まり、驚いたソフィーがぶつかりそうになったのを辛うじて交わした。

「坊、大丈夫なの?」

「千とソフィーが二人で行く方が大変だ。坊は男だから守ってあげられるぞ」

ハクへの対抗心を燃やしているのは何となく気がついていたが、こういう時はそれがとても有り難い。

一度行った事がある処に行くといえども、ハクもハウルも捕まっている状態で心細いのは確かだった。

「……それじゃお願いするわ。頼りにしてるわね、坊」