力ある者
その13

Web拍手御礼作品







「良くきたね」

銭婆は相変わらずの気さくさで二人(と坊)を迎え入れた。

「おや、その子が異世界で友達になったという子かい」

千尋の後ろに隠れるようにして立っていたソフィーが覗き込まれてびくっと背筋を伸ばした。

「はっ、はい! ソフィーと申します!」

そんなソフィーの様子を目を丸くして見ていた銭婆は突然笑い出した。

「あっはははは! そんなに固くなる事ぁないよ。さ、入りな」

中へと入っていく銭婆について歩き出した千尋は、ソフィーがその場に突っ立っているのに気が付いて腕をとった。

「さ、入ろう」

「う、うん……」





中へと入るとそこはこざっぱりとした雰囲気の部屋だった。

ソフィーにとってはとても居心地がいい洋風の部屋で、中に入って見回しているうちに気持ちが落ち着いていくのが感じられた。

「そこに座りなさい」

「おばあちゃん、あの……」

「分かってるよ。ハクと」

銭婆の視線がソフィーに向けられる。

「ソフィーのボーイフレンドの事だろう?」

ソフィーの頬が赤くなる。

「こうしてる間にハクやハウルさんが湯婆婆に力を取られてしまったりしないかなぁ」

銭婆はヤカンをかけながら笑みを浮かべた。

「大丈夫だよ、帰りはちゃんと送ってあげるからね。まずは落ち着いて、お茶でも飲んでおいき」

銭婆があくまでものんびりとした様子で話すのに安心したのか、千尋は「はい」と頷いて椅子へと腰掛けた。

坊は既にテーブルによじ登り、置いてあった果物へと手を伸ばしていた。

「あっ、坊! 勝手に食べちゃ駄目だよ!」

「あっははは、好きにしておやり。ここで食べた分はしっかり運動して貰うつもりだからねぇ」

林檎をかじろうとした坊がぎくり、と動きを止める。

その視線はあの糸巻きの滑車に向けられていた。

「坊、良かったね。沢山運動が出来るよ?」

慌ててふるふると首を横に振る坊を見て、ソフィーと千尋は笑い出してしまった。






「全く妹にも困ったもんだねぇ」

お茶を飲みながら銭婆が苦笑を漏らした。

「坊にだって分かってる事なのにね。異世界の者がここにとどまり続ける事は互いにとってあまり良くない事なんだよ」

「………」

「千尋はまだ精霊達が住む世界の人間だからね、馴染むのも早いだろうが………あんたはまたそこから少し違う世界に住んでいる者だ。今も感じてるんだろう? 何か違和感を」

ソフィーはゆっくりと頷いた。

「はい……何がどう、って訳じゃないんですけど……」

「そのハウルのように強大な力を持っているならば大丈夫だろうが、あんたみたいに何も力を持たない娘はここにずっと居続けるのは心身に色んな影響が出てくる筈だからね」

「そうなんだ……」

「たまに遊びに来る、というくらいなら大丈夫だろうけどね」

ソフィーはフォークを置き、溜息をついた。

「ソフィーさん……」

ハウルの事が心配になってきているのか、ソフィーは曖昧な笑みを浮かべるだけだった。

「おばあちゃん、そろそろ……」

「ああ、そうだね」

銭婆は「ちょっと待っておいで」と二人に言うと、奥の部屋へと入っていってしまった。

それからややして銭婆は、カオナシと共に出てきた。

「カオナシ、千尋に渡しておあげ」

カオナシが手にもったものを千尋の方へと差し出す。

「これ……?」

カオナシが差し出したのは直径5センチほどの小さな石だった。

青く光るその石は透き通っていて、向こうが見えるほどにすんだ輝きを放っている。

「これが湯婆婆の結界を中和してくれる。結界に向かって投げ込めばいいからね」

「有り難う、おばあちゃん!」

カオナシから石を受け取り、千尋はそれを大切そうにスカートのポケットへとしまいこんだ。

「さ、そこにお立ち」

坊が千尋の肩へと上ったのを確認して、銭婆は促した。

「転移で飛ばしてあげるからね。目をつむっていた方がいいよ―――流れる景色に目がまわってしまうだろうから」

「はい」

千尋とソフィーは互いに手をぎゅっと握り合って示された処へと立つ。

それから目を閉じた。

「ハクとそのハウルっていう男の子によろしく伝えておくれ」

銭婆の声が聞こえた―――と思うと、風が舞い起こった。

「きゃ……!!」

一瞬体が浮かび上がる―――そんな心地がした後、銭婆の気配が急速に遠ざかっていくのを千尋は感じていた。

(――待ってて、ハク。今帰るからね……!)