星の子
その6

Web拍手御礼作品








結局もう一度城へと戻り、今日のところは休もうという事になった。

とはいえど、そんなに大きい城ではないので(何しろ客人が泊まりに来るという事は想定されていないので、きっちり4人分(+1)の寝室しかないのだ)、一番大きい部屋のソファをベッド代わりに見立ててみる。

「あたしのベッドを使えばいいのに」

ソフィーがそう提案をするが、千尋は丁重にそれを断った。

「いきなり転がり込んできてそこまでお世話になる訳にはいかないもの」

「ハクさんもベッド使わなくていいの?」

今度はハクの方へと尋ねたソフィーに、ハクはやんわりと首を振った。

「私は人間ではないから、ベッドがなくても別に構わないんだ。千尋の方に使わせてあげて」

「そう……?」

仕方なくソフィーはソファの上に枕やら毛布やらを持ってくると簡易ベッドを作り始めた。

「―――ハウルさんは?」

ふと気がつけばハウルの姿がない。

きょろきょろと辺りを見回す千尋に、ソフィーが苦笑を漏らした。

「さっき出て行ったから、また何か調べにいったんだと思う」

或る意味放浪癖があるとも言えなくないハウルは、ふっと姿を消してしまう事があるらしい。

「……もしハクがハウルさんみたいな行動してたら、私はきっと怒ってるだろうなぁ」

ソフィーはよく怒らずに、黙ってハウルのやりたいようにさせているものだ。

窓の外を見ていたハクがえっ!? と振り返るのを横目で見ながら、千尋はしみじみと思っていた。

「あら、あたしだって怒ることあるわよ? でも全然懲りないから……仕方なくって感じね」

「ふーん……」

殆ど変わらない年だと言うのに、ソフィーは凄くしっかりしている。

「ソフィー……新しいパジャマ、どこ?」

これからお風呂に入るところらしいマルクルが顔を覗かせた。

「待って、今出すからね」

ゆっくりくつろいでね、と断ってからマルクルの手を繋ぎ、ソフィーは出て行く。

それを見送って千尋は溜息をついた。

「そんなに大きな溜息をついてどうした?」

あまりにも盛大な溜息をついている千尋を心配してか、ハクが近寄ってくる。

「……ソフィーって、お母さんみたいだなって思って」

時にはハウルの恋人、時には皆を仕切る肝っ玉母さん、時には恥じらいを見せる年相応の少女―――とソフィーの印象はくるくる変わる。

「同じくらいの歳なのに、何か恥ずかしいなぁ……私、何にも出来ないもん」

「そんな事ないよ」

ハクが後ろからそっと千尋を抱きしめる。

「千尋は千尋だから、ソフィーにはなれないのが当たり前なんだから。千尋にしか出来ない事があるんだからね」

―――もとの世界に戻れないかもしれない、という不安が何処かにあったに違いない。

抱きしめられると何となく安心して、千尋は「うん」と微笑みを返したのだった。












その頃。

「―――カルシファー、どう?」

ハウルとカルシファーは星の湖にいた。

水面ぎりぎりのところに立つハウルの上着や髪を、そよそよと風がなびかせていく。

ハウルの手の上に乗ったカルシファーは、上を見るような仕草をしてからうん、と頷いた。

「やっぱりそうだ。その”時”が来てる」

「そう、か―――」

ハウルはそのまま何かを考え込んでいた。

「な、ハウル」

「うん?」

「あのハクって奴さ、川の化身って言ってただろ?」

「そうだね。今はかなり力を押さえているようだけど、とんでもない力を感じる」

「―――って事はさ、やっぱり、”その為”にここに呼ばれたんじゃないかな」

「…………」

「だってハウルじゃどうしようもないだろ? おいらにだってどうしようもない。でもあのハクって奴になら出来るよ、きっと」

カルシファーの言葉にハウルはじっと考えていたが。

「―――明日、話をしてみよう」

「頼むよ。おいら、あいつは何となく怖くってさぁ……」

ハウルの手の上でふるふるっと震えているカルシファーに、ハウルはくすっと笑みを漏らした。

「そりゃ性質が全く違うからね。向こうは水、カルシファーは火。互いに打ち消し合ってしまうからだろう」

「あいつにあんまり近づけないでくれよぉ」

「分かった分かった。……さ、帰ろうか。あんまり遅くなるとソフィーが心配する」

とん…、と水面を蹴ると、ハウルはそのまま宙へと舞い上がった。