星の子
その8
Web拍手御礼作品
花畑のなかを通り、湖へと歩いていく。 とてもいい天気で空は雲ひとつない晴天。 今夜も晴れるであろうことは予測出来た。 今、湖は空の色を映して青く澄み渡っている。 その水辺へと立ち、ハクはじっと水面を見つめていた。 「………」 「どう?」 ハウルが隣に立っても、ハクは水面から視線を逸らさない。 「―――美しい処だ」 「うん。ここは昔から変わらない」 「……大地や大気も今宵の事を感じ取っているんだろう、静かすぎる」 確かに風はそよそよと穏やかに吹いているが、生き物の気配がしない。 今宵落ちてくる星の子たちの事を警戒しているのだろうか。 「―――何とかなりそう?」 「たぶん」 ハクの答えに満足したのか、ハウルは笑みを浮かべた。 「良かった。カルシファーも喜ぶよ」 二人が水辺でそんな会話をしているのを、ソフィーはただじっと見つめている。 その隣で辺りの景色を物珍しそうに見ていた千尋だったが、ふとソフィーの表情が険しいのに気がついた。 「どうしたの、ソフィーさん」 じっとソフィーはハウルの後ろ姿を凝視していて、千尋の声に気がつかない。 「ソフィーさん?」 少し声を大きくして呼びかけると、ソフィーははっと我に返った。 「…あ……」 「どうしたの? 怖い顔してる」 ソフィーはううん、と首を横に振った。 「何でもないの。何でも……」 「ソフィー? どうかした?」 途端にハウルが近づいて来て、心配そうにソフィーを覗き込む。 ソフィーはわたわたと手を振って、後ずさった。 「何でもないってば。さ、夜までは時間あるんだから色々準備しましょ」 すたすたと歩き出すソフィーからやや遅れるようにしてハウルが歩き出す。 「……どうしたんだろう?」 「……さあ」 千尋の問いにハクもただ首を傾げるだけだった。 陽が沈んでいく。 完全に沈みきる前にハクはもう湖のところまで来ていた。 「陽が落ちたら降り始める筈だ」 ハクから少し離れた場所でやはり辺りの様子を窺っているハウルがそう告げるのに、ハクが頷きを返す。 そよそよと風が静かに草原と水面を通っていくが、そこには確かに昼間とは違う何かの気配がある。 何かが起こる前触れ、とでもいうものだろうか。 ―――陽が落ちる。 ふ…と空を見上げ、ハクは目を見開いた。 「―――来たか」 すーっと光が走り、ぱあっと飛び散る。 「落ちてきた!」 城のなかでカルシファーが叫ぶ。 何かあったらいけないから、と言われて城で待機しているように言われた千尋とソフィーは、慌てて窓へと駆け寄った。 一つ、二つ。 まだ少ないが、いくつもの光が空から落ちてきては大地にぶつかり飛び散っていく。 流れ星が空を横切るのは見たことあるが、こんな風に空から落ちてくる場面を見るのは初めて。 千尋は窓の外を食い入るように見つめていた。 「流星群なんだ……!」 「……あたし、行ってみる!」 ソフィーが扉に飛びついて開ける。 「あ、ソフィー!」 カルシファーが止めるよりも早く、ソフィーは外へと飛び出していってしまった。 「ソフィーさん!!」 その後を追って千尋も飛び出していく。 後にはおろおろと飛び回るカルシファーが残るばかり。 「あああ、二人ともっ! 全然人の注意を聞いてないんだからなぁっ!」 思い切り毒づいてから、カルシファーは二人の後を追って外へと飛び出した。 |