星の子
その9

Web拍手御礼作品







「ハク―――!!」

駆けてくる二人を見てハウルが驚きの声をあげた。

「ソフィー、千尋、二人とも危ないから城にいるようにって……」

「だって心配なんだもの!」

空からどんどん星が落ちてくる。

その光で辺りはまるで昼間のように明るい。

ハクは―――というと、湖の近くに立っていた。

「――――」

遠くで聞き取れないが、ハクの唇が何かの呪文を唱えた。

そして手のひらに浮かぶ何かをふぅっと吹き飛ばす。

「……鱗…」

あれはハクの鱗だ。

そう思った瞬間、あたりの景色がふっと霞んだような気がした。

「……幻惑の魔法か…」

「え?」

ソフィーがハウルに問いかける。

「ここら一帯に幻惑の術をかけたんだよ。これだけ大がかりなのをかけられるとはさすがだね」

「ハウル、あっち見ろ!」

ようやく追いついたカルシファーがハウルのすぐ真上までやって来て、指を向けた。

「誰か来てるぞ!」

薄暗くなってきている草原の向こうに数人の人影が見えた。

「幻惑を無効化したか」

カルシファーの声を聞きつけてやって来たハクが視線を向ける。

「ちょっと脅かすか……」

ハクの表情が悪戯っぽいものになる。

(ハクがこういう表情するなんて珍しい……)

千尋がそんな事を思いながら見つめている前をハクは通り過ぎ、ハウルの前へと立った。

「ハウル、力を貸してくれ」

「僕の? いいよ……何をすればいいのかな?」

「幻影では引き下がらないとすれば、直接脅す方がいいだろう」

何やら二人でひそひそと話を始めてしまい、話に加われない千尋はそのままソフィーの方へと視線を向けた。

「……ソフィーさん?」

ソフィーはさっきからずっと黙ったままだ。

顔色も悪い。

「どうしたの、ソフィーさん」

肩を掴んで揺さぶると、ソフィーははっと我に返ったように千尋を見た。

「な、何でもないの……」

「カルシファー、千尋とソフィーを頼むよ」

打ち合わせが終わったようで、ハウルがカルシファーへと話しかける。

ハクは白い竜へと姿を変えていた。

「一体何をするんだ?」

カルシファーが問いかけるとハク竜の背にハウルが乗り、にっこりと微笑んでみせた。

「下手に刺激すると応戦してくるだろうし、かと言って幻影程度では引き返さないようだからね。ちょっと脅かしてくるんだよ。そこで待ってて」

ハウルが言い終わるか早いか、ハク竜は宙へと舞い上がった。

それを見送ってカルシファーが千尋のすぐ近くへと降りてくる。

「……まぁ、ハクがいるからハウルも暴走する事はないと思うけどなぁ……」

「うん……」

あの二人なら大丈夫だろう。

今の千尋は、真っ青な顔をしてじっと星の子たちを見つめているソフィーの方が気になっていた。









「もうちょっと近づいて。近くの方が魔法をかけやすい」

ハウルの声にハク竜が高度を下げる。

相手―――3人のまだ若い魔法使いたちらしい―――もこちらに気がついたらしいが、まずハク竜の姿に驚いて固まってしまったらしく動こうとしない。

「あなたが竜になってて正解だよ。それだけでかなり威圧されてるらしい」

ハウルは手をすっとあげ、呪文を用意し始めた―――










ぱぁっと光が飛び散る。

その光が星の子の光なのか、ハウルが放ったものなのか、千尋のいる場所からは分からない。

だが。

「ハクの姿で相当びびったようだな。あいつら、逃げてくぜ」

カルシファーの言葉に千尋はほっと胸を撫で下ろした。

ハクもハウルも強いとはいえども生身には変わりないのだから、傷ついて欲しくない。

「ソフィーさん、ハウルさん、帰ってくるよ?」

ソフィーの手をぎゅっと握ってそう訴えると、ソフィーは弱々しく「うん」と微笑みを浮かべた。

「大丈夫か、ソフィー? 城に戻った方が……」

「いいの。―――ここにいる」

白い竜の姿がこちらの方へと戻ってくる。

竜が地に着く前にハウルがその背からひらりと飛び降りた。

「追っ払って来たよ。辺りに人影も気配もないし、幻影が効いている間は大丈夫だろうと思う」

人間の姿に戻ったハクも、ハウルの言葉に頷いた。

「今宵は大丈夫だろう」

「良かった……」

千尋は改めて空へと視線を向けた。

先ほどよりも星の子の数は増え、次々と大地へ落ちてきている。

本当なら自分の手も見えないほどの暗闇の筈なのに、辺りはまるで昼のような明るさに包まれていた。

「どのくらいの時間、星の子は降るんだろう…」

千尋が呟いた言葉にカルシファーが返事を返した。

「明け方まで続くんだ。まだまだこれから、沢山降ってくるぞ」

「ふぅん……」