星の子
その10

Web拍手御礼作品








ソフィーは、星の子を見つめていた。

大地に届いた星の子は大地の上で転んだり走り回ったりしているが、やがてぱっと光の粒になったり崩れ去ったりする。

儚くそして美しい星の子たちが大地にたどり着いた時、ソフィーの目には楽しそうに走り回っているように見えるのだが、本当のところはどうなのだろう?

「……大地へと還った君の仲間たちは、これで静かに眠れるかな」

「……たぶんね」

ハウルとカルシファーがそんな事を話している。

「あ、見て! 今の星の子、大きいよ!!」

「千尋、走ると危ないよ」

「綺麗だね……あ、また落ちて来た!」

初めて見る光景に目を奪われて足元を全く見ずに歩こうとする千尋を、ハクが優しく宥めている。






「……懐かしいな。あの時とおんなじだ……」

ハウルがそんなことを呟いたのが耳に入り、ソフィーはハウルに視線を向けた。

空を見上げるハウルと、その肩口に浮かんでいるカルシファーとが、星の子の灯りに照らされている。




「―――……!」

その姿が薄らいで消えていくような気がした。







「…ソフィー?」

ソフィーの手がハウルの腕を掴んでいた。

「……ソフィー、どうしたの」

ソフィーの手が震え、ぎゅっと強くハウルの腕を握りしめる。

「ソフィー…?」

次々と降ってくる光のなかで、ハウルは不思議そうにソフィーを見つめていた。

「……何処にも行かない…よね」

「え?」

何とか震えを押さえようとするソフィーの気持ちとは裏腹に、震えは増すばかり。

「ハウルもカルシファーも、ずっとここにいるよね……」

「ソフィー…」

「これから、ずっと……みんなで、あの城で、一緒に暮らしていくんだよね……」





―――ここは全ての始まりの場所。

ここにもう一度戻るという事は、始まった出来事を終わらせる為かもしれない。

それはソフィーにとっては別れを意味する。







「……何処にも、行かないで……」

ソフィーが何を恐れているのかを悟って、ハウルはソフィーを抱き寄せた。

「大丈夫。僕もカルシファーも君のそばにいるよ」

「そうだぞ。おいら達はソフィーの処以外、行く場所なんてないんだからな」

カルシファーが元気づけるように話しかけてくる。

「そんな不安そうな顔をしないで」

軽く唇を触れあわせて、ハウルは「見て」とソフィーを促した。

「終わるんじゃない。新しい始まりなんだよ」

「……始まり…?」

「そう。彼らと出会えたことは、僕らにとっても新たな始まりなんだ――きっとね」

ソフィーがふっと視線を向ける。

―――その視線の先には、流れ落ちる星のなかで空を見上げる二人の少年少女の姿。

手を繋いで見上げる二人の姿が光のなかで浮かび上がって見えて、ソフィーは目を細めた。

「これから、始まるんだ」

何かが始まる。

自分を抱きしめる腕の強さに安堵を覚え、ソフィーはそっとハウルにもたれかかった。

「――そうね……始まるのね……」













千尋はただただ星の子たちを見つめていた。

「あ……」

湖のなかに落ちた星の子が、最後の輝きを残して沈んでいく。

それを見送って、千尋は息をついた。

「……千尋」

「始め聞いた時は「落ちて死んじゃうのは可哀想」って思ってたけど―――こうして見たら、星の子は人間が手にいれちゃいけないものなんだなって思う……」

「そうだね……」

人が触れてはならないもの。

この星たちはそういうものだ。

ハウルがここにいられるのはソフィーという存在があったからに他ならない。

触れてはならないものを手に入れてしまった代償は、とても大きかったに違いない―――沢山のものを失って来ただろう。

それだけの代償を払う事を人はまだ知らない。

だから力を欲し―――狂っていくのだ。

「……あ…」

星の子が千尋の直ぐ近くに落ちて来た。

身長は50センチにも満たず、頭が星の形をした小さい星の子が千尋の周りを走り回る。

「かわいい…」

暫く走り回った後、星の子の姿はぱぁっと弾けて消えてしまった。

「あ…」

どうして彼らは大地に落ちてくるのだろう?

死んでしまうことが分かっていて、何故?

「……どうして、落ちてくるのかな。死んじゃうことが分かってるのに……」

カルシファーは死にたくない、と思っていた。だからハウルとの契約に応じた。

死にたくないのに、どうして?

ハクは暫く考えて―――口を開いた。

「――それでも大地が恋しいからかもしれない」

「好きってこと?」

「そう」

問いに対するハクの答えに、千尋はもう一度空を見上げた。

「それでも大好きだから……かぁ」

それは理解出来る。

誰かを、何かを愛しく想うことは理屈ではないから。

「……ホント、綺麗ね…」

「うん…」

二人はいつまでも空を見上げていた。