小さな魔法使い

その2








「……何か不思議な感じですね」

帰って来たマルクルは開口一番そんな感想を漏らした。

「確かに顔はハウルさんの面影があるんだけど……サイズが僕と一緒」

「…………」

ハウルはむすっとしたままテーブルにほおづえをしてそっぽを向いている。

「で、ソフィーが元に戻してくれないから拗ねて、ずっとあそこにいるって訳なんだね」

おばあさんの言葉にカルシファーが「まぁ……そういうことかなぁ」ともごもごした答えを返した。

「はーい、ご飯が出来たわよ」

ソフィーがお皿を持ってきてテーブルに並べていく。

「わぁ……今日のも美味しそう…」

美味しそうな湯気をたてているスープが次々とお碗に盛られていくのを、マルクルが目を輝かせて見つめていた。

「はい、どうぞ」

ハウルの前にお碗が置かれる。

それにちらりと視線を向けたハウルだったが、すぐにまたそっぽを向いた。

「いらない」

「食べないの?」

「おなかすいてない」

……と言った途端にハウルのおなかがぐ〜〜、と音をたてた。

「〜〜〜〜!!!」

「やっぱりおなかすいてるんじゃない。子供の身体に戻ったからおなかが空きやすくなってるのよ」

「いらないったらいらない!」

そういうが早いかハウルはぴょんと椅子から飛び降りて、自分の部屋の方へと走っていってしまった。

「…………」

それをみんなで見送ってしまう。

「そんなに子供に戻ったのが嫌だったのかなぁ…」

「どうせ思い通りにならないから拗ねてるだけだって。大人のハウルだったら魔法で何でも出来るのが、子供になったら基本的な魔法すら危ういんだから」

カルシファーが薪を手にとってもぐもぐと口にしながら言う。

「ほっとけよ。空腹に耐えられなくなったら出てくるって」

「……そうね」

とは言うものの、いつになく不機嫌そうだったハウルに「あの時キスしてあげれば良かったかな」とちょっぴり後悔するソフィーであった。









「お休みなさい」

「お休みなさい、良い夢を」

「いこっ、ヒン!」

ヒンに声をかけてぱたぱたと駆けていくマルクルを見送り、ソフィーはおばあさんの布団をかけ直した。

「もし何かあったらカルシファーに声をかけてね」

「はいはい、分かったよ」

それからソフィーはハウルの部屋の方を見た。

「……まだ拗ねてるのかしら」

「そうだねぇ。全然出てこないねぇ」

ふぅ、と溜息をついてソフィーは身を起こした。

「ちょっと様子を見てくるわね」

そんなソフィーの後ろ姿をおばあさんは優しい目で見つめていた。








そおっと扉を開ける。

覗き込むとベッドがこんもりと盛り上がっていた。

「―――ハウル」

声をかけても返事はない。

扉を閉めてベッドへと近づく。

そこまで近づいても毛布はぴくりとも動かない。

ぺらっと毛布をめくってみる。

「………」

ハウルは小さく丸まってすーすーと寝息をたてていた。

頬に涙の跡が残っているのに気がついて、ソフィーはそっと彼の前髪をかきあげた。

きっと腹がたって悔しくて泣きわめいていたのだろう。

大人になってもあれだけの癇癪を起こすのだから、小さい頃は相当な癇癪持ちだったに違いない。

「……ごめんね、ハウル」

そう呟いてソフィーは彼の頬を優しく撫でた。

それからハウルにもう一度毛布をかけて、ソフィーは灯りを落とした。











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