ロンド
交錯の回旋曲

その2








太陽が四度巡り、月が四度上ろうとしたその夜。

ソフィーは繕い物をしながらハウルの帰りを待っていた。

今までも何も言わずに出ていくことはあったし、一昼夜帰ってこないこともあった。

だがこんなにも長く城を空けていたことはない。

まだソフィーが城に転がり込む前は一週間くらい平気で留守にしていたらしいが(他の女の家に転がり込んでたんだろうとはカルシファーの弁である)、ソフィーが来てからこちら、長く城を空けることはなくなった。

そして前の日までのハウルの様子も気にかかる。

「……危ないこと、してなきゃいいんだけど……」

ハウルは心が傷つくことをひどく恐れる反面、体が傷つくことには無頓着なところがある。

「……本当にあたしの気持ちなんて全然分かってないんだから……」

おとぎ話では、呪いが解けたお姫様は王子様と幸せにくらしてめでたしめでたし、となる。

だが自分は呪いが解けてもめでたしめでたし、とはいかないようだ。

(―――あたしに出来ることは何もない。ただ、こうやって彼の無事をただ信じて待つだけしか)

自分はこんなにも無力なのだだと思い知らされたような気がして、ソフィーはついに針を置いてしまった。

(どうしよう……もし、ハウルが帰って来なかったら……)

どんどん考えが最悪の方向へと進んでいくのを止められず、ソフィーはかぶりを振った。

「…お茶でも飲もう……」

少し落ち着かなければ。

カルシファーと話をしたら少し楽になるかもしれない。

そう思ったソフィーは立ち上がった。













「……ソフィー?」

ソフィーがリビングへと入った途端、カルシファーが声をかけてきた。

「起きてたの?」

「ソフィーこそ。ここのところずっと遅くまで起きてるだろ?」

「うん……」

ソフィーは椅子をもってくるとカルシファーの前に座った。

「……1人で考えていたらどんどん怖い考えになっちゃって……」

「………」

「だめねぇ、あたし。ハウルのこと信じてるって言っておいて、色々悩んだりして……」

「そりゃハウルが悪いんだから仕方ないよ。ソフィーは悪くない」

憮然とした様子で言い切るカルシファーにソフィーはくすっと笑みを漏らした。

「……その言葉、ハウルが聞いたら怒るわよ、きっと」

「だってさ。誰にも言わずに黙って行動するなんて、絶対に間違ってるだろ!」

どうやら自分にも何も言わずに動いているハウルにカルシファーはかなり憤慨しているらしい。

「帰って来たら絶対に問いつめて聞き出してやる」

「反対に怒らせて水をかけられないようにね?」

「うっ。…そ、そんなことをしたらハウルの一張羅を丸焦げにしてやる」

カルシファーと話をしていると心が軽くなっていくのが感じられた。

(―――やっぱり、カルシファーと話をして良かったわ……)

ハウルを心配しているのは自分だけじゃない――同じような思いをしている者がここにもいる。

そう自覚するだけで負担が軽くなったような気がする。






―――と。






かしゃん! と扉の取っ手が回った。

「!?」

はっとソフィー、カルシファーの視線が向けられる。

取っ手の色は黒。

ハウルしか扱えない扉の色だ。

じっと見守る二人の前で、キィ…と扉が開いていく――――。











「ハウル!!」

入って来たハウルを見てソフィーが悲鳴をあげる。

「ソフィー……まだ起きてたんだ…」

白い上着を真っ赤に染めたハウルがソフィーを見上げて苦笑を漏らしていた。










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