ロンド
交錯の回旋曲

その3








「何処!? 何処怪我したの!?」

慌てた様子で上着を脱がそうとするソフィーをハウルは押しとどめた。

「大丈夫、落ち着いて」

「大丈夫な訳ないじゃない! 上着が赤くなるほどに出血して!!」

「この血は殆ど返り血だから…」

「返り血?」

血で汚れないように配慮しながらそっとソフィーの腕をとり、ハウルは彼女を椅子に座らせた。

「ほら、僕の怪我はこの程度」

上着を脱いでハウルが指し示した腕には、剣の切っ先がかすめたような赤い筋が一本走っているだけ。

「このくらいならすぐに治せるよ」

ハウルが手をかざすとそのかすり傷はすぅっと肌に溶けて消えてしまった。

「ほら、ね?」

「………」

ハウルが殆ど怪我をしていないことに安心をしたのか、はたまた感情の山を越えた後の放心状態に至ったのか、ソフィーは背もたれにぐったりともたれかかってしまった。

「返り血って……どういうことだ?」

放心状態なソフィーに代わってカルシファーが訊ねる。

途端にハウルは黙り込む。

「……ハウル」

「……風呂に湯を送ってくれ」

「おい、ハウル!」

聞く耳持たないという態度で歩き出すハウルを、カルシファーが咎めるような声を出す。

だがハウルの足は止まらず、2階の浴室へと消えてしまった。

「……何だよ、あの態度!!」

ぐったりともたれかかったソフィーは、大きなため息をついた。















ハウルが浴室から出てきた時にはソフィーの姿はなかった。

暖炉でぱちぱち…とカルシファーの炎があがっている。

「……ソフィーは部屋へ帰った?」

暖炉へ向かって問いかけると、しかめっ面のカルシファーが薪に手をついて身を起こした。

「泣いてたぜ」

「ソフィーが?」

「ハウルのこと、すんごく心配してたんだからな。怪我してたらとか、危ない目にあってないかとか」

「…………」

先ほどまでソフィーが座っていた椅子に腰を下ろし、ハウルはじっとカルシファーを見つめた。

「やっぱり分かるもんなのかな」

「そりゃあれだけピリピリしてたらな」

ハウルは先ほどのソフィーの様子を思い出していた。

ハウルが怪我をしていないと分かった途端に力が抜けて椅子にもたれかかってしまったソフィー。

どれだけ心配していたか、いくら機微に疎いハウルだって分かる。

「……何があった? サリマンが絡んでるのは確かだろ」

カルシファーが問いかけてくる―――長年のつきあいで、彼が本気で怒っているのが分かった。

「……まぁね」

隠し通せない。

そう悟り、ハウルは指を組んでゆっくりと語り始めた―――――。












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