ロンド
交錯の回旋曲
その5
朝、ソフィーは真っ赤な目をして現れた。 「ソフィー、大丈夫? もうちょっと寝てたほうがいいんじゃない?」 マルクルが心配そうに覗き込んでくるのをソフィーは笑顔で断った。 「大丈夫よ。ちょっと寝不足なだけだから」 「だったらなおさら……」 「家事の合間に休んでるから平気よ。ほらマルクル。お皿を並べて」 ソフィーはフライパンを手にとってカルシファーのほうへと歩いていく。 ハウルに負けず劣らず、ソフィーも言い出したら聞かない部分がある。 「全然大丈夫に見えないから言ってるのに、気がついてるのかなぁ……」 マルクルのそんな愚痴は、ソフィーには届かない。 ハウルは帰ってこない。 あれだけの返り血を浴びているということは、それだけ人の血が流れる場所にいるということ。 ―――それこそ、戦争のまっただ中にでもいない限り。 「〜〜〜っっ…」 ますます怖い考えになって、ソフィーは顔を覆った。 「また戦争が起こってるのかしら……せっかく平和になったっていうのに」 ふと、ポケットのなかの固い感触に気がついて、それをポケットから取り出す。 それはハウルが肌身離さず身につけているようにと置いていった護符。 だがこの護符はハウルにこそ必要なものではないだろうか? 城で皆と共に彼の帰りを待つ自分に、そんな危険が及ぶとも思えない。 「…………」 真ん中にはまっている青い石が魔力の中心だろうか。 魔法のことはソフィーにはさっぱり分からなかったが、それが凄い魔法で作られているらしいことは分かった。 「今度ハウルが戻って来たら、この護符を返さなきゃ」 少しでもハウルの身が安全でありますように。 自分に出来ることはこれくらいしかないから――――。 一週間がすぎた。 「カルシファー、あたし買い物に行って来るわ」 ソフィーのその声にわたわたとカルシファーが飛んでくる。 「か、買い物って、外に出るのか!?」 ソフィーはあきれ顔でカルシファーを見返した。 「当たり前でしょ? いくらハウルが外に出るなって言ったとしても、あれからも二週間たつのよ? 城の食料だって尽きてしまうわ」 「マルクルに買いに行かせればいいだろ?」 「マルクルだと食材の善し悪しがよく分からないでしょ? お金が無尽蔵にある訳じゃないんだから節約だってしなきゃいけないし」 「で、で、でもぉ〜〜」 「すぐ戻るわ。後をお願いね」 ぐずぐずと言い募るカルシファーには取り合わず、ソフィーは取っ手を回した。 店へと扉をつなげる。 「待てよ、ソフィー!」 「行って来ます」 それだけ言うとソフィーは外へと出ていってしまった。 後には扉を呆然と見つめるカルシファーが残るばかり。 「〜〜〜〜もおっ!! みんな勝手だ――――!!!」 カルシファーが叫んだ途端、カルシファーと繋がっている城の煙突が、凄まじい煙を吐き出した。 |