ロンド
交錯の回旋曲
その7
「……帰らない……」 カルシファーはおろおろと暖炉のあたりを飛び回っていた。 「ソフィー、何処まで買い物に行ってんだよぅ……」 「僕、探しに行ってこようか?」 「ヒン!」 マルクルとヒンがカルシファーを見上げる。 「カルシファーはここにいた方がいいでしょ? ソフィーが何時帰ってくるかもわかんないし……」 「うう〜〜、頼むぞマルクル」 「分かった、任せて! いこ、ヒン!」 マルクルとヒンが勢いよく出て行くのを見送って、カルシファーはうう、と声を上げた。 「……ソフィーは当分帰らないかもしれないねぇ」 のんびりとくつろいでいたおばあさんが、ふとそんな事を呟いた。 「ばーちゃん、何でそんな不吉な事言うんだよ!」 涙目になったカルシファーがおばあさんに詰め寄るが、おばあさんの方は何処吹く風。 「何となくだよ。何となく」 「ううう……」 ―――伊達に数十年魔女として生きてきた訳ではない。 ここの処虫の知らせというか、魔女の勘とでもいうか、そういうものをずっと感じていた。 (―――ま、何かあってもハウルが何とかするんだろうけどねぇ……) そんな事を思いつつ、おばあさんはずず〜〜っとお茶を飲み干した。 「ソフィー! ソフィ〜〜!!」 夕暮れ時の通りにマルクルの声が響き渡る。 「何処行っちゃったんだろ……」 段々と押し寄せる不安を振り払い、マルクルは声を張り上げた。 「ソフィー!!」 「ヒン!!」 ヒンが声を上げてもの凄い勢いで走り出す。 「ヒン!? 待って、待ってってば!」 マルクルは息せき切って後をついていき、ヒンが鼻をくんくんと鳴らしてにおいを嗅いでいるものを覗き込んだ。 「これ……」 マルクルは初めて見るものだったが、ヒンには見覚えがあるものだった。 ソフィーがじっと見つめていた、あの護符。 それがこんな道ばたに落ちている。 「ヒン、知ってるの? これ、ソフィーのもの?」 「ヒン!」 ヒンの頷きでこれがソフィーのものである事を確信したマルクルは、そっとその護符を拾い上げた。 「あ!」 その途端、護符がさらさら…と砂のように形が崩れ、風化していく。 マルクルの手に残ったのは砂だけ。 「これ……どういう事……?」 マルクルとヒンは顔を見合わせるしか出来なかった。 |