ロンド
交錯の回旋曲

その9






ハウルは遠見の水晶球に手をかざした。

闇雲に探しても疲弊するだけ―――これで何か手がかりでも分かれば、そこを中心に探すことが出来るだろう。

「―――ソフィー…」

水晶球に何かが映り始める。

やがてはっきりと見え始めたその景色をハウルはじっと見つめた。

「……これは…」

高い塀とたくさんの見張り兵。

そのなかにある城のような建物の塔部分にも兵士がいて、不審な者がいないかどうか見張っている。

塀に飾られる紋章は隣国のものだった。

「何処かの砦らしいな……」

そう呟いてハウルは辺りの景色へと視点を移した。

鬱蒼と茂る森とその近くには川の存在。

近くには街の存在はないらしい。

だが前に鳥となってあちこちを飛び回っていたハウルにはすぐに見当がついた。

「国境近くの砦か」

そこにソフィーはいる。

ハウルは水晶球をしまいこむと上着を羽織りなおした。

見る間に背から羽根が生え体を羽毛が覆い始める。

鳥の姿へと変身したハウルは、一気に上空まで舞い上がった。

「!?」

その羽音に兵士たちが驚いて見上げる。

だがその時には、黒い鳥の姿は空のなかへと消えていた。










思った通り水晶球で見た砦は、国境近くの砦だった。

見張りに見つからないぎりぎりまで近づいて降り、木に隠れて様子を窺う。

外からでは把握しにくいが人質を閉じこめるとすれば脱出しにくい地下牢か塔の最上階のどちらかだろう。

ハウルが助けに来ると踏んでいるだろうから、消去法で地下牢に囚われていると考えて間違いない。

いきなり殴り込む事も考えたが、ソフィーが何処にいるのかが分からない状態では危険すぎる。

(―――どうするか……)

ざっと見回しても地下に降りる階段は外には見あたらない―――あの砦の中に入るしかないだろう。

(―――よし)

ハウルは一人頷くと隠れていた木から離れ、砦に向かって歩き出した。











「……!? あれは……」

やはり最初に気がついたのは塔の見張り兵だった。

「誰か来るぞ!!」

けたたましい警笛の音が鳴り響き、兵士たちが飛び出してくる。

「あの男だ、取り囲め!」

見る間にハウルの周りを銃を構えた兵士たちが取り囲んだ。

「何者だ」

何か抵抗を見せればすぐに発砲出来るように銃口を心臓に当てた状態で、兵士が問いかける。

「…………」

「おい! 質問に答えろ!!」

「なぁ……もしかしてこいつって…魔法使いハウルじゃないか?」

その途端取り囲んでいた兵士たちがぎょっとしたように後ずさる。

「あ、あの魔王の再来と言われている、魔法使いのことか…!?」

「悪魔をも手下に従えてるっていう……?」

(……噂に尾ひれがつきまくってるな……カルシファーが聞いたら怒るぞきっと)

妙な広がり方をしているらしい噂に呆れながらも、ハウルは視線を向けた。

「この砦に娘が囚われているだろう。その娘に会いに来た」

「娘……?」

兵士たちが顔を見合わせている。

その様子では本当にソフィーのことを知らないらしい。

(……僕を警戒していなかった処を見ると、ソフィーの存在は上の方しか知らないということか……)

「何事だ!」

その声でハウルを取り囲んでいた兵士たちがざっと道を開けた。

歩いてくる男の服装は下っ端の兵士よりも明らかに格が上。

将校クラスの兵士らしい。

「いえ、この男が……」

その男はハウルを見た途端顔を強ばらせた―――という事は。

(―――こいつはソフィーのことを知っているな)

「……この男のことは私が何とかする。おまえたちは持ち場へと戻れ」

「はっ」

兵士たちがばらばらと散っていく。

二人だけになったところでその男が言葉をかけてきた。

「あの娘を助けに来た訳だな」

「……ソフィーは何処にいる」

「会わせてやるさ。おまえが来ることは予測済みだからな」

不適な笑みを浮かべる男に不審なものを感じるが、今はとにかくソフィーの元へと行くことが先決。

「来い」

歩き出した男についてハウルも歩き出す。

―――砦に入った途端、何かを感じ取ってハウルは視線を巡らせた。

(砦全体に防護の魔法がかかっているのか……)

サリマンが王宮を守っているようにこの砦を守る魔法使いがいるらしい。

さすがにサリマンほどの力はないようだが、爆弾をそらすくらいは出来るだろう。

そして今、ハウルの存在を感じ取って警戒をしているのが分かる―――魔力がぴりぴりと肌を刺すように感じられて痛い。

(下手に騒ぐとソフィーが危なくなるな……)

自分だけならばその魔法使いをねじ伏せることも出来るが、ソフィーに危険が及ぶことは避けたい。

まずはソフィーの安全を確保しなければ。











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