ロンド
交錯の回旋曲
その12
階段を上りきった処でピィ――――! と警笛が鳴り響いた。 「見つかったか。さすがに早いな」 「のんびり言ってる場合じゃないでしょ!」 砦の中は防護の魔法をかけている魔法使いの存在がある為、下手に魔法は使えない。 おまけに弱り切ったソフィーの体力では、走る事は出来ない―――歩いているのもやっとのようで、ハウルに分からないように隠してはいるが、かなり息が上がってきている。 「いたぞ!!」 入り口や他の出入り口から兵士たちがなだれ込んでくる。 ハウルとソフィーはあっという間に兵士たちに囲まれてしまった。 「……ハウル……」 しがみついてくるソフィーを片手でぎゅっと抱きしめ、ハウルは周りを見回した。 無数の銃口は、ハウルが何か魔法を使うそぶりを見せればすぐにでも発砲出来るようになっている。 「傷つけては駄目よ」 この場にそぐわない女性の声が聞こえて、視線を向ける。 「まだこの砦の中にいる以上自在に魔法は使えないわ。いくらハウルといえどもこれだけの兵を相手に、魔法なしでは太刀打ち出来ないでしょうからね」 美しいブロンドの髪を持つ、妖艶な美女。 それが一目見た彼女への感想だった。 ハウルの腕に力がこもる。 「―――ハウル…」 「彼女だ。この砦に防護の魔法をかけているのは」 その女性はハウルを見つめ微笑みを浮かべている。 (―――嫌な、感じがする……) 美しい女性なのに、その微笑みには何か裏を感じる―――マダム・サリマンの言い方を借りれば、「道を踏み外した魔法使い」という部類に入る者に違いない。 そういう輩が何故王国軍の砦を守るという重要な立場にいるのかは分からないが。 (……何か感じるんだけど、周りの魔法が邪魔をしてうまく探れないな……) もっと探ろうとしたハウルの意識は、魔女の声で遮られてしまった。 「……さぁどうするつもり? この包囲網からあなたは助かってもソフィーは助からないでしょうからね。あなたが許しを請うのであれば助けてあげても良いけど」 「断る」 ハウルはその言葉を迷うことなく切り捨てた。 「―――そう」 当然、美しき魔女はその整った顔を不機嫌そうにゆがめた。 「なら好きになさいな。―――後は任せたわよ」 「はっ」 魔女の命令を受けたのは、ハウルを案内したあの将校だった。 彼女の姿が部屋の奥へと消えると、ハウルとソフィーを囲む兵士たちの輪が一段と小さくなった。 「………」 ハウルの腕を掴むソフィーの手に力がこもる。 「……仕方ないか」 あまり使いたくなかったが仕方ない。 ハウルはソフィーを抱きしめる腕に力を込めた。 「ソフィー……僕から絶対に離れないで」 「ハウル……」 ―――ハウルの周りで、風が起こり始める――――― 「何をしている!!」 鋭い声が聞こえ、それまで微動だにしなかった兵士たちに動揺が走った。 魔法を発動させようとしていたハウルは、視線だけをその声が聞こえた方へと向けた。 ソフィーもハウルの服を握りしめたまま顔を向ける。 ―――そして、二人は驚いたように声を上げた。 「―――カブ…!?」 「……ソフィー!? それにハウル……どうして君たちが!?」 砦の奥から出てきたのは、元カカシのカブだった男性―――隣国の王子、だった。 |