ロンド
交錯の回旋曲

その14







「そちらでも同じことを……」

話を聞き終わった王子が深い溜息を漏らした。

「紛争を終わらせたいのに、終わらない? そんな事ってあるのかしら……」

「命令系統の何処かで何か起こってるのかもしれない。……今ちょっともめてるのもあるし……」

さりげなく漏らした王子の言葉に、ソフィーが問いかけた。

「もめている?」

うっかり漏らしてしまったのだろう、王子はしまったという顔をしていた。

「ちょっとね。私もこの国に戻ったばかりだから……聞かなかった事にしてくれるかな」

そう言われると気になるが、他国の事をそれ以上根掘り葉掘り聞く訳にもいかず、ハウル達は黙り込んだ。

―――と。

「殿下。馬車の用意が出来ました。王宮へとお戻りになられますか?」

側近がドアを開けてそう告げた。

王子が立ち上がってハウルとソフィーに向き直る。

「ともかくは我が王宮へと来たまえ。君たちの身柄を私が預かっている状態だから、すぐに国へと返してあげる訳にいかないんだ。―――一度国王陛下に目通りをして、そこで帰還の許可を頂かないと」

確かに今は(自分が望んだ訳ではないとしても)隣国へと不法入国をしている状態になっている。

王子が二人に友好的であるのだし、今は王宮まで行ってきちんと許可を貰った方が良いだろう。

「分かった」

ハウルはそう判断して立ち上がった。

「ソフィー、たてる?」

「大丈夫よ」

ちょっとふらつきながらソフィーも立ち上がる。

「王宮までは馬車で2日ほどかかる。少し長旅だけど我慢してくれ」

「そんなにかかるの……」


―――あんまり帰るのが遅くなったら、カルシファー達が心配するかも。


ソフィーが思ったのはそのことだった。
















暗闇の中で、声が聞こえた。

「―――王子が、ソフィー達を連れ王宮へと出発しました」

「押さえきれなかったか」

「ハウルが来るとは思っておりましたが、よもやあんなにあっさりと牢を脱出されるとは。予想外でした」

「どういうことだ? おまえがあそこで始末をしておけばこんなことには……」

「私に指図するつもり?」

その声に二つの声は押し黙ってしまった。

「まあいいわ、王宮に来るなら願ったり叶ったりよ。―――ただ、あの娘は始末した方がいいわね。まだ利用価値があると思って生かしておいたけど邪魔になるだけだわ」

「は…」

「任せるぞ……おまえを信じてここまでやって来たんだからな」















「うわぁ……」

馬車の窓から頭を出して、ソフィーは声を上げた。

キングスベリーも大きいと思っていたが、この街も負けず劣らず大きい。

荒地の裾野の街では絶対にお目にかからないであろう建物が、整然と美しく建ち並んでいた。

「凄い、綺麗な街……!」

「気に入った?」

ソフィーの前に座った王子が窓に視線を向けて、ソフィーが眺めている方向を見つめて問いかけた。

「ええ、とても!」

そんなソフィーの隣で、ハウルは不機嫌極まりないという様子で座ってそっぽを向いていた。

「ほら、ハウルも見なさいよ。すごいわよ!」

「―――別に、いい」

「何拗ねてるの、もう」

ソフィーはそれ以上ハウルに取り合おうとせず、また窓の外へと視線を向ける。

「ほら、あの建物はこの前出来たばかりなんだよ。ガラスが特注でね……」

「へぇ……凄いのね…」

ソフィーと王子が楽しそうに話をしているのを横目で見ながら、ハウルは大きなため息をついた。

(―――やっぱり、こいつだいっ嫌いだ…!)

王子の方をちらっと見て、そんな事を思いながら。









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