ロンド
交錯の回旋曲

その18







静かな夜が更けていく。

ソフィーはあてがわれたベッドの上で既に眠りについており、ハウルはその部屋のソファの上で休んでいた。

「………」

突然、ソフィーがむくりと起きあがる。

その衣擦れの音でハウルが目を覚ますかと思い視線を向けるが、彼が起きる様子はない。

ほっと息をついてソフィーはベッドから降りると肩掛けを手にとった。

(変な時間に目が覚めちゃった……)

月は傾きかけているが日の出にはまだ早い。

ここが城だったら自分で何か作って飲むところだが、王宮では女官を呼んだりしなければならないだろう。

(そこまで面倒かける訳いかないものね……)

肩掛けを羽織り、窓際へと近づいてカーテンの隙間から外をそっと覗き見る。

外は半月の光でかろうじて見える。

広大な庭が広がり、警備兵が見回りをしているのか時々きらりと銃身が光った。

(夜遅くまで大変そう……こうして寝てるのが申し訳なく思っちゃうなぁ……)

そんなことを思いながら外を見ていたソフィーは、

「ソフィー」

と声をかけられて振り返った。

ハウルが起きあがってソフィーの方を見ている。

「眠れない?」

「うん…ベッドがふかふかすぎるのかも。あまり豪勢なのも考え物かもね」

「違いない」

立ち上がったハウルが窓の近くへと歩いてくる。

カーテンを開けると部屋のなかを月の光が満たし、明るくなった。

「……ハウルも疲れたんじゃない? ベッドで寝たら?」

「大丈夫だよ。数日寝ずに過ごすことだってあるんだし」

そう言いつつ窓の外へと視線を戻す。




―――きらり、と視界の隅で何かが光る。




「………?」

ハウルははっと息を呑んだ。

その様子にソフィーが声をかける。

「ハウル?」

「伏せろ、ソフィー!!」

その言葉と同時にハウルがソフィーを抱きかかえ床に伏せる。





キィィィン…!!





耳障りな音が響き、窓ガラスにひびが入った。

「きゃ…!」

「く…!」

すぐに身を起こしハウルは窓へ飛びついた。

―――銃痕が残っている。

明らかにソフィーを狙ったものだ。

念のためにと窓や出入り口にかけた防護の魔法が銃弾を防いだためにこれだけで済んだのだ。

「な…何なのこれ…」

ソフィーが呆然とした様子で銃弾の残った窓を見つめている。

見える処に人影はない。

先ほどの銃声で警備兵たちが慌てふためいたように走り回っているのが窓から見えた。

「……王宮も安全じゃないってことか……」

「な、何であたしが命を狙われなきゃいけないの……」

「ソフィー……」

―――ソフィーを奪われるとか、一緒にいられないとか、そんなことを嘆いている場合じゃない。

周りが敵ばかりのこの場所でソフィーを守れるのは自分しかいないのだ。

「大丈夫。……僕が君を守るから」

ハウルはソフィーを抱きしめ、安心させるように何度も囁く。

「ハウル……!」

ハウルに抱きしめられて安堵したのか、ソフィーがしがみついてくる。

「絶対に君を守りきってみせるから…」

外が騒がしくなってくる。

ようやく廊下の外も慌ただしくなってきていて、女官や召使いたちが走り回っているのが分かった。

―――今日はもうこれ以上眠ることは出来そうもない。










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