ロンド
交錯の回旋曲

その20









ハウルはさりげなさを装いながら王宮の廊下を歩き回っていた。

(――ここまでの事を仕掛けるには、絶対魔法使いの協力が必要だ……)

砦であったあの魔女、あの女が絡んでいるのは間違いない。

魔法使いにはあるまじき姑息な手段を使うのが得意らしいが、絡め手を使うのが苦手な自分が何処まで対処出来るだろう?

―――と歩き回るうち、ハウルは王宮のある方向に魔力の強い流れがあることに気がついた。

自分たちが案内された客室からかなり遠いが、行けない距離ではない。

そこが恐らく王宮付き魔法使い達が集まる棟に違いない。

ひときわ強い魔力の持ち主がいる―――マダム・サリマンには及ばないが、この国の魔法使いを束ねる筆頭魔法使いだろう。

「あ…ハウル様? どちらへ…」

ハウルの姿を見かけた女官が慌てたように声をかける。

「せっかく別の国に来たのだからこの国の魔法使い殿たちに会いたいと思ってね」

その言葉に納得したのか女官はほっと安堵の表情を浮かべた。

「良ければご案内いたしましょうか。ここからは少々距離がありますので」

思ってもない申し出だ。

闇雲に歩き回るよりもそのほうが怪しまれずにすむだろう。

「それじゃ……お願い出来るかな?」

「分かりました。こちらです」

―――ハウルに背を向けた女官がふ、と微笑んだのを、ハウルは知る由もない。



















ばたん、と扉が開け放たれる。

「!?」

ソファに座っていたソフィーは立ち上がって扉に視線を向けた。

―――扉の処にたくさんの兵士が立っている。

「あ…あの……」

「ソフィー・ハッター。おまえをスパイ容疑で逮捕する」

「は?」

思わず声をあげてしまった。

(―――スパイ容疑? あたしが!?)

「あたしは、そんな……」

「言い訳は牢で幾らでも聞いてやる。来い!」

兵士たちがばらばらと部屋に押し入り、ソフィーの腕を掴む。

「ちょ、ちょっと待って!! あたしは何もしてないわ……王子に聞いて貰えたら分かるもの!」

「これは王陛下直々のご命令だ。殿下にも後でご事情をお聞きすることになっている。引っ立てろ」

あの優しそうだった国王が、そんなことを?

「ちょっと、話を聞いてってば!! 問答無用はないでしょうっ!!」

このままではハウルが敷いた魔法陣から出てしまう事になる。

何とか両足で踏ん張って耐えていたソフィーだったが。

「引っ立てろ」

男性の力に抗えず、彼女は両脇を抱えられてそのまま引っ張られていったのだった。













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