ロンド
交錯の回旋曲

その22









魔法使い達がいるはずの館までやってきた王子は、扉を開けようとして「いたっ」と声を上げて手を引っ込めた。

取っ手のところに黒い魔法陣が浮かび上がり、ばちばちっとスパーク音をたてている。

「どうやら魔法使い達を外から閉じこめているらしいな」

どけ、と示して王子をどけさせたハウルは、すっと扉に向けて指を横にひく仕草をした。

そのとたん、魔法陣がすぅっと色を失いぱっと消えてなくなる。

「これでいい。入るぞ」

ハウルが取っ手を掴んでももう魔法陣は浮かび上がらない。

そのままハウルは取っ手を引いて、扉を開けた。












「殿下! ご無事でしたか……!!」

魔法使いたちがほっとした表情で駆け寄ってくる。

「君たちも無事だったか」

「はい……クーデターが起こった時に皆ここに閉じこめられてしまい、中からはあかない状態になっていたのです」

「これだけの魔法使いがいるのに、指向性があるとはいえど全く太刀打ち出来ないほどの魔法をかけることが出来る魔法使いが、我が国にいたか……?」

王子が首をひねった時。

「―――ヴァネッサが大臣に力を貸しているようです、殿下」

その声に視線を向けると、中央の扉からまだ中年くらいと思われる女性が姿を現した。

「申し訳ございません、殿下。ヴァネッサの謀反を止めることが出来ませんでした」

「モリガン」

―――とすると、この女性がこの国の魔法使いを束ねる王宮付き魔法使い筆頭ということか。

「追放したはずの彼女が戻ってきていて、大臣と通じていたようです。見抜けなかった私の責任です」

「反省は後でも出来る。今はこのクーデターを何とか押さえねばならない。そうだろう?」

「はい、ごもっともです」

モリガン、と呼ばれた女性はハウルのほうへと視線を向けた。

「あなたがハウル殿ですね」

「…………」

同じ王宮付きとはいえど、サリマンのように政治に関わっていないためか雰囲気は穏やかで、ハウルはほんの少しだけ緊張を解いた。

「ソフィーさんは今の処は無事のようです。殿下にとってもあなたにとっても彼女は絶大な効力を持つ最後の切り札ですから、いきなり殺してしまうようなことはありません」

―――暫くは無事という事だが、いつ彼女の命が危険に晒されるとも限らない。

「それは事態の好転にはなり得ない」

「そうです。陛下の命も向こうに握られている以上、急がねばなりません」

モリガンは王子とハウルとを見比べた。

「王宮全体を大臣が把握するにはまだ猶予があります。ヴァネッサさえ押さえてくださればクーデターを支持する兵士たちは我らで押さえましょう」

「その間にソフィーや父の身に危険が及ぶ可能性は?」

王子の言葉にモリガンはきっぱりと言い切った。

「ないとはもうしません」

「それでは意味がないじゃないか!」

「ですがこれしか手だてがありません―――ヴァネッサは我々の動向を把握しており、下手に動けば事態がもっと悪くなります。彼女が把握していない魔法使いはハウル殿しかおられません」

「………」

「我々も何かしたいのですが……今のままではどうすることも出来ないのが現状なんです」

弟子であろう若い魔法使いたちがおずおずと言う。

―――自分たちしか動ける者がいない。

覚悟を決めるしかなかった。

「彼らがいるのは謁見の間か」

「はい」

王子はハウルを振り返った。

「行こう、ハウル」

「―――ああ」

―――何でこんなことになったんだろう?

自問しても答えは見つからなかった。











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