ロンド
交錯の回旋曲

その23









「ヴァネッサはモリガンの弟子だ。頭角を現して来ていたまだ若い魔法使いなんだが……」

「だが?」

「突然私をカブ頭にしたんだ。その罪でこの国を追放されたと聞いていた。その時に魔力も封じられたはずなんだが……」

謁見の間へと向かいながら、王子は早口でヴァネッサの事をハウルに告げた。

「以前の彼女よりも明らかに力が増している。追放された先で何か力を得たのかもしれない」

「…………」

力を得る方法はいくつもある―――だが、短期間で力を得る方法となるとそう多くはない。

そう。たとえば―――悪魔と契約をする、とか。

(まさか……な)

一瞬頭に浮かんだ可能性を否定して、ハウルは足を速めた。

「ここら辺りの結界も全て彼女の仕業ということか……」

「そういう事になる」

廊下のあちこちに仕掛けられた光の壁―――結界に遭遇するたびに、ハウルがそれを破壊する。

道案内は王子がし、ここまでは足止めを食う事もなくやってこれた。

―――と、ひときわ輝く光の壁に気がついて二人は立ち止まった。

「これが最後の結界―――という処か」

ハウルはすっと光の壁に向かって手をかざした。

「―――散れ」

呪文もなく、ただそう呟いただけで壁は四散してしまう。

「さすがだな……ここまでの結界を張り巡らせるのに向こうは相当力を費やしただろうに。呪文の詠唱もなく破壊してしまうとは」

素直に賛嘆の言葉を口にした王子は、ハウルの様子がおかしいのに気がついて声を潜めた。

「どうした、ハウル?」

「……何でもない」

右腕を押さえ、苦悶の表情を浮かべているハウル――――その腕に視線をやって、王子は声を上げた。

「ハウル、その腕は―――……!」

ハウルの右腕が肩の辺りまで棘や鱗で覆われ、指に鋭い爪が生え始めている。

「何でもない」

「カルシファーとは分離した筈だろう!? 何でそんな異形の変化を……」

なおも追求してくる王子を押しのけ、ハウルは歩き出した。

「ハウル!」

「うるさい! ついて来ないならおいて行くぞ!!」

聞く耳持たないハウルの様子に、仕方なく王子も歩き出した。

何かハウルの身に起こっているのは分かるが、自分にはどうしようもない。

ただ分かるのは、カルシファーの力は未だハウルの中で生きているらしい、という事だった。













謁見の間からは強い魔力を感じる。

その扉の前に立ち、ハウルは扉に手をかけた。

「ハウル」

「躊躇するな。相手を更正させようとか甘いことを考えていると、本当に殺されるぞ」

「……分かっている」

力を込め、扉を押し開いていく――――。












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