ロンド
交錯の回旋曲
その26
それは唐突に起こった。 「――――…!?」 突然地鳴りが起きて牢屋を揺らす。 「な、なに……」 ソフィーが辺りを見回したとたん。 どぉぉん! と爆発が起きて、床に描かれていた魔法陣が床ごとはじけ飛んだ。 「きゃ…!」 飛んでくる破片に思わず身をすくめるが、そんなソフィーの体を守るように何かが覆い被さってくる。 「……ソフィー」 低い声が聞こえて、ソフィーははっと目を開けて上を見上げた。 ソフィーを見つめているのは、彼女が良く知る青い瞳だった。 「ハウル……元に…」 ハウルが人間の腕でソフィーの体を抱きしめて来る。 「ソフィーのおかげだよ。君の声がずっと僕を励ましてくれてたんだ」 ―――闇の中でもがくハウルに道を指し示してくれたのは、ソフィーの声。 力に呑まれそうになった自分が何とか戻れたのは、彼女が呼んでくれていたからだ。 「ハウル…」 「ごめん、ソフィー……痛くなかった?」 首筋を撫でられてソフィーはくすぐったそうに身をよじった。 赤くはなっているものの傷にはなっていない。 「大丈夫よ……痛みは全然ないし」 「……良かった…」 ぐらり、とハウルの身体が傾ぐ。 「ど、どうしたの!?」 慌ててハウルをまだ手錠でつながれたままの不自由な手で支え、覗き込む―――と。 「……疲れた……眠い…」 安堵したからなのか精神力を使い切ったのか。 ハウルはそれだけ言うとソフィーの膝に頭を置いて寝転がった。 「ハ、ハウルっ!! こんなとこで寝ちゃだめよ!?」 「少しだけだから……」 ソフィーが慌てて揺さぶるも時既に遅し。 ハウルはすーすーと寝息を立て始めてしまった。 「………」 床は冷たい石畳。 どうしてこんな状態であっと言う間に眠れてしまうのやら。 ―――と思いつつも、ソフィーはハウルを起こすのを止め、優しく髪を撫で始めた。 「……大変だったものね。疲れたのよね……」 次から次へとやってくる困難からやっと解き放たれて、今になって疲れが出たんだろう。 一緒にいなかった間、ハウルの身に何が起こっていたかは想像するしかないが、きっと緊張と消耗の連続だったに違いない。 ――せめて、誰かが来るまでは休ませてやろう。 あの懐かしい城に帰るまでは、まだまだ色々な困難が待っているだろうから。 「お休みなさい、ハウル……」 ソフィーは屈み込んで、眠り続けるハウルの額にそっと口づけを落とした。 |