Boys are sensitive age
その4






―――これは、夢だ。

千尋がまず最初に思ったのは、それだった。

ハクがここにいるはずがない。

あ、でもまたきっと会えるって言ってたから、会いに来てくれたのかな。

わたしに会いに――――きゃあああああっ。

ぃやーん、どうしよう、告白なんかされちゃったら!!

いや、それともわたし、今のショックでまたあの世界にとばされてしまってたりして?

い、今とばされたらまずいよぉっ。期末試験も近いのに!!

千尋の頭の中は色んな可能性を考えるので忙しい。

がそのどれもが外れである。

その証拠に、呆然としたままの千尋にハクはちょっと、いやかなり不安になってきていた。




「‥‥ち、千尋? 大丈夫か‥‥??」

心配そうに目の前で手をふるハクに、千尋は今度こそ我に返った。

「は、ハク!? ど、どうしたのいったい‥‥‥!?」

ようやく千尋からきちんとした答えが返ってきて、ハクは安堵したようだった。

が、ここに来た理由を思い出したらしく、表情をひきしめる。

「千尋の力が必要なんだ。来て」

「‥‥‥はい?」

久しぶり? とか元気だった? とかいう言葉もなく、いきなりそれですか。

いやそれとももしかしたら私の聞き違い?

思いつつ千尋がハクをまじまじと見つめると、ハクは聞こえなかったと思ったらしく、もう一度繰り返した。

「千尋の力が必要なんだ。私と一緒に来てほしい」

「はぃ?」

今度の「はい?」は言葉を理解したからで、微妙にニュアンスが違っている。

えーと

一緒に来て欲しいって

まさか

まさか

駆け落ちのお誘い!!!?(ハクと同じような事を考えるあたり、やはり似たものどうしである)

って、違うか。私の力が必要って言ってたもんね。

私の力が、必要? 

何か油屋で困ったことでも起きたのだろうか?

「それって‥‥あのー‥‥?」

拉致があかないと思ったのか、ハクはいきなり千尋の目の前で竜に変化した。



竜の姿から人間に戻るのは見た事あったが、その逆は初めてで

千尋は手にもっていた上履きの袋をばさっと落としたまま、呆然とハクを見つめていた。

竜になると喋れなくなるらしく、ハクは千尋の服をぱくっとくわえると、ぐぃぐぃと引っ張って自分の背中に千尋を乗せた。

そこに至って、ようやく千尋は三度目の我に返った。

遠くから、学校のチャイムが聞こえてくる。

「ち、ちょっと待って、ハク! あたし、学校!!!」

そんな千尋の言葉をすぱっと無視して、ハクは空に舞い上がった。

「きゃぃぁああああああっっっ」

心の準備もなくいきなり舞い上がったものだから、千尋の体にGがかかる。

振り落とされないようにハクの体にしがみつくので必死だ。

「ハク、ハクってば――――!!」

完全無視。

ハクは、あの異世界との接点になっているトンネルまでやってくると、一気にその中を通り抜ける。

背中にのっている千尋は、あまりのスピードにすでに乗り物酔い状態になっていた。