Boys are sensitive age
その5
懐かしい、あの橋のたもとまで来て―――ようやくハクは地におり、千尋を大地におろした。 降りたとたん、千尋はへたりこみ、ぜぃぜぃと息をついている。 「大丈夫? 千尋‥‥‥」 誰のせいだと思ってるのっ!! という言葉は人間の姿に戻ったハクの顔を見たとたんにどこかに吹っ飛んだ。 別れてから2年。 千尋の方はまだ子供子供していたが、ハクは確実に美貌に磨きがかかっている。 涼しい切れ長の瞳に高い鼻筋。きりっとした眉。艶やかな黒髪。芸能人でもここまではいないだろう。 何もせずにこの美貌を保て、さらにグレードアップ出来るのはさすが神様である。 そのハクが心配そうに千尋を見つめているのだ。 しかも間近で。 これにくらっとこない女性はいない。 いいもの見させて貰った礼に、ハクに八つ当たりはやめることにする。 「だ、大丈夫‥‥‥ちょっとびっくりしただけ。でもどうしたの‥‥? こんなに急いでつれてくるなんて」 二度と戻る事はないと思っていた湯屋が目の前にある。 ハクが差し出す手をとって、千尋はようやく立ち上がった。 ハクから聞かされた内容は、千尋にとっては「はぁ?」というものだった。 「銭婆のおばあちゃんが‥‥湯婆婆の印を?」 信じられない。 あの優しいおばあちゃんが、湯婆婆のものを盗むなんて。 「きっと、何かの間違いだよ」 そうよね? と聞く千尋にハクは首を横に振った。 「どうやら本当らしい。手紙は確かに銭婆のものだった。私も目を通したから、わかる」 それで湯婆婆と大喧嘩もしたのだし、という言葉は呑み込んでおく。 「それで‥‥どうしてわたしが使者なんだろう。ハクでもいい訳だし‥‥それに坊だってちょくちょく遊びにいってるんでしょ? もう坊だって大きくなったろうし、坊でも十分出来ると思うけど‥‥」 「銭婆からの指名だ。どうしてかは私もわからない。私も一緒に行くから、銭婆のところに行ってはもらえないだろうか」 ハクにそう言われて断れる千尋ではない。(というかここまでつれてこられて嫌だと言っても帰れないので、受けるしかないのだが) 「‥‥わかった! わたしで出来る事があったらなんでもする!」 その時のハクの嬉しそうな顔といったら、千尋だけに見せるのがもったいないくらいの極上の顔であった事を、つけくわえておく。 湯婆婆からも話を聞いた千尋は、慌ただしくすぐに出発した。 何故かハクが千尋をせかすので、千尋はせっかく湯屋に戻ってきたというのに釜爺やリンと話す暇もなかった。 「どうして、そんなにせかすの?」 竜の姿になるのに適当な場所を探して歩いていくハクの足がぴた、と止まった。 「湯婆婆が焦ってるからなのはわかるけど‥‥でも、おじいさんやリンさんとも話、したかったな」 「千尋‥‥‥」 寂しそうな千尋の声に、思わず抱きしめたくなる衝動を何とかおさえる。 別に、釜爺やリンと話すのをはかまわない。 問題は―――――― 「そう、湯婆婆のところで坊を見なかったけど、坊は元気にしてる?」 とたん、端から見ていてもすぐにわかるくらい、ハクのこめかみに青筋が浮き上がる。 が、根が鈍感に出来ている千尋は全然全くちっとも気がつかない。 「――――ああ、元気にしてるよ」 腹立たしいほどにね。 という言葉はおなかの中に沈めて、ハクは千尋の手を引っ張って再び歩き出した。 千尋が来る前に、ネズミとりをしかけておいて良かった。 |