Boys are sensitive age
その6





竜の姿になったハクにまたがり、一気に海を越える。

あの時通った道のりを逆にたどる。

とはいってもあの時はもう夜更けだったし、途中で人間の姿に戻ったハクと色々あんなこととかこんなこととかあったので、どの道を通ったかなんて千尋にはもうわからない。

千尋がキョロキョロしているうちに、ハクは高度を低くし始めた。

見覚えあるカンテラが見えてくる。

「あ――――おばあちゃんちだ‥‥!」

千尋は背を伸ばして大きく手をふる。

カンテラが手を振り返す。

「覚えててくれたんだ!」

嬉しそうな千尋はハクがムッとしているのにも気がつかず(竜の姿だからよけいにわかりづらい)、ハクが舞い降りると同時にぴょんと飛び降りた。

「おばあちゃん! 私よ、千尋よ!!」

トントン、と扉をノックすると

「よくおいでだね、千尋―――おぉおぉ、大きくなって‥‥」

これまたとっても嬉しそうな銭婆が姿をあらわし、千尋をぎゅーっと抱きしめたのだった。





無茶苦茶不機嫌なハクとともに家に招き入れられた千尋は、これまた懐かしい人を見つけ、声をあげた。

「あ―――!! カオナシ!! 元気だった?」

部屋のすみにぼぅぅっと立っていたカオナシに気づき、千尋がばたばたと駆け寄る。

それまで「相手は銭婆だから」と我慢していたらしいハクの堪忍袋の緒が、ちょっとだけ切れた。

さすがに全部切るのは銭婆の手前まずいと何とか理性で保ったらしい。

が、どう見ても「怒ってます」といわんばかりの大股でずかずかと千尋に近づき、千尋の腕をぐぃととる。

もうすぐカオナシの前に、というところで腕をとられ、千尋はよろけて結果的にハクの胸に転がり込んでしまった。

「!!!!!」

カオナシの顔色がハッキリ変わるのがわかった。(いや仮面をかぶっているのだから、雰囲気が変わったというべきか)

「きゃ、ごめん、ハク‥‥‥」

相も変わらず場の雰囲気を読むのが下手な千尋は、カオナシの雰囲気も当然読めず、赤くなってハクに謝っている。

が、その当のハクは千尋の腕をぎゅっとつかんだまま、思いっきりカオナシにガンとばし。

カオナシの方もハクの方をじ――――っと見ているところをみると、ガンをとばしているつもりらしい。

「ど、どうしたの二人とも」

わかっていない千尋だけが二人をきょろきょろと見比べている。

そこへ銭婆が助け船を出した。

「さぁさ、二人ともそこにお座り。お茶をいれてあげるからねぇ」

「――――湯婆婆から奪った印は、何処です?」

せっかくの助け船をあっさりと蹴り飛ばし、ハクが低い声で訊ねる。

一刻もここからは早く帰りたいといわんばかりの物言いに、腕の中の千尋が「ハク!」と咎めるようん声をあげるが、ハクは知らんぷりだ。

「茶を飲むくらいの時はあるだろう? お嬢さんものどが渇いているようだし、少しは落ち着きな。竜の子よ」

千尋がこくこくと頷くのを見て、ハクは仕方なく腕を放した。

「―――一杯だけですよ」




――――首尾良く千尋をつれてこれたのは良いが、どうもあの坊やが邪魔をするようだねぇ。これは面白くなりそうだ‥‥

久しぶりの客に上機嫌でお茶をいれながら、銭婆は願ってもないこの刺激的な大イベントをどうもっと面白くしようかという事を考えていた。

ハクがその考えを読む事が出来ていたら、あの湯婆婆と姉妹だけはあるとうそぶくに違いない考えを。