記憶の彼方に
2
今日は休みの日。 友達と約束してる訳でもなく―――恋人がいる訳でもない私は、家でのんびりとしていたけど――やがて立ち上がった。 「あら、どうしたの千尋?」 お母さんの言葉に私は手を振った。 「散歩してくる」 「そう。気をつけてね」 お母さんの声を後ろに、私は靴をはいて、外へと出た。 初夏にしては少し暑い。 立っているだけで汗がにじんできそう。 私はちょっと空を見上げて―――目的もなく、歩き出した。 目的もなく―――とはいったものの、ふと気がつけば私は昔神隠しにあったと言われるトンネルの前に立っていた。 「‥‥またここに来ちゃった」 ここのところ、ふと気がつけば私の足はここに向かっていた。 ―――まるで、誰かを待っているように。 「‥‥私、誰かを待っているのかな‥‥?」 どこにいても。 ふと気がつけば私は誰かを捜している。 たぶん―――きっと夢の中の誰かだろうと思う。 夢から覚めれば、名前はおろか顔すらも思い出せない誰かを。 人ごみの中でも ふと、誰かとすれ違った時でも 私は近くにあった石像に腰をおろし(神さまをまつったものらしいので、一応は断っといたけど)ぼーっとトンネルの方を見つめた。 暗い、先の見通せない道。 でも、見えないだけで―――確かに道は続いてる。 そう。その道の向こうには―――― 一瞬、何か脳裏によぎって―――気がつけば私は立ち上がっていた。 今―――何か浮かんだ。 鮮やかな―――赤い、色の、屋敷。 そこに続く、橋。 一面の、海。 「‥‥なに‥‥なんなの‥‥これ‥‥」 頭がいたい。 今にも爆発しそう。 おもいだせそう。 おもいだせない。 そんな曖昧なところをいったりきたり。 頭痛は激しさを増す。 思い出そうとするのを何かが邪魔しているようにも思える。 いたい いたい! だれか―――だれかこのいたみをなんとかして! 足の力が抜けて崩れ落ちそうになった私は―――がくんっ、と何かに支えられて地面に激突せずにすんだ。 ―――――あれ? 頭の痛みが、ひいてる。 さっきまでの痛みがウソのように―――ひいている。 そういえば‥‥ 私、誰かに支えて貰ってる。 頭痛がひいたとたん、頭が回るようになって――――私は御礼を言うために慌てて足に力をこめた。 自分の足で立って 御礼を言うために目の前の人に視線をむける。 |