Curse(カース)
その2







寝室に通されると、そこにはハクも何度か会った事がある千尋の母が寝かされていた。

気が、酷く弱い。

このままではまず数日も保たない――――ハクは瞬時にそう理解した。

「おかあさんが‥‥倒れたって‥‥わたし‥‥わたし‥‥」

千尋は母の寝かされたベッドに飛びついて、へなへなと崩れ落ちた。

「‥‥お医者さまには?」

ハクが父親に訊ねると、父は首を横に振った。

「見せたが、原因不明と言われたよ。体は何処も悪くない。どうして意識が戻らないのか、体が衰弱しているのかわからないそうだ」

「大きい病院につれてこうよ!! このままお母さんが死んじゃったら‥‥私‥‥わたし嫌だよぉ‥‥!!」

泣き叫ぶ千尋に近づき、ハクはそっと母親の額に触った。

「‥‥‥!?」

ハクは身を乗り出して、手を額に押し当てた。

「‥‥ハク? どうしたの‥‥?」

ハクの表情が見る間に厳しくなっていく。

千尋は不安にかられながらハクの服を引っ張った。

「ね、ねぇ‥‥ハク‥‥」

「ハク、くん?」

父もハクの行動が理解出来ず、不審そうにハクを見つめている。

「‥‥千尋」

「は、はいっ!」

「ここ数日中に、何か届かなかった?」

「え‥‥?」

唐突なハクの言葉に千尋は目を白黒させるばかり。

「あ、そういえば」

と父親が手を打った。

「ほら、千尋宛に何か来ただろ。2、3日前に。差出人のない手紙みたいなのが」

「ああ、アレ‥‥‥」

千尋は嫌そうな顔をした。

「何か来たんだね?」

「うん‥‥なんか嫌な感じがして、まだあけてないの」

ハクは目を厳しくした。

「‥‥それ、見せてくれないか?」

「う、うん‥‥」

部屋を出ていき、やがて千尋が戻って来た時に持って来たのは―――――一枚の封筒だった。

そこから、嫌な気配を感じ――――鳥肌がたつ。

「‥‥貸して」

ハクはその封筒の中身をあけた。

中から出てきたのは――――ヒト形の白い紙。

千尋は、それを見た事があった。

「ハク! それって‥‥‥!!」

「‥‥‥式神だ」

ハクは腹立たしげにそれを破り捨てた。

その白い紙は、床に落ちる前に光となって消えてしまう。

「こ、これは‥‥」

訳がわからない父親は、目を丸くしている。

千尋は、見覚えがあった。

前に、竜だったハクを襲っていた白いもの。

あれは銭婆が襲わせたものだった。

まさか。

まさか、銭婆が?

千尋の心を読んだかのように、ハクは首を横に振った。

「違う。銭婆じゃない。銭婆が千尋を呪う理由がない」

「えっ!? あたし!?」

いきなり自分の名前が出てきて千尋は仰天した。

ハクは千尋の髪を指さした。

「本来ならば千尋に行く筈の呪いが、その髪留めの魔力によってはじかれ―――代わりに千尋の母に向かったのだろう。普通ならあり得ない事だが‥‥呪いにそういう方向性が仕組まれていたのならば‥‥」

それからハクは母に枕元に向かい、手を胸に置いた。

じょじょに、苦しそうだった母の顔が穏やかになってくる。

穏やかな寝息を立て始めたのを確認して、ハクは手を離した。

「これでいい。明日には起きられる筈だよ」

念のために寝室の入り口に清めの塩をおいておいたほうがいい、と指示を出しながら、すでにハクの意識は別のところに移っている。

父親が母の枕元に来るのと交代するように、ハクはきびすを返し寝室から足早に出た。

「あ、ハク!!」

千尋はとりあえず母は父親に任せる事にして、慌ててハクの後を追った。