Curse(カース)
その3








ずんずん早足で歩いて行くハクは、急いでいるようでもあった。

「ハク!!」

何度目かの呼びかけにようやくハクは振り返った。

「ね、ねぇ‥‥ホントは私が呪われたって‥‥ど、どういう事? 私、何か‥‥‥したかな」

不安そうに訴える千尋に、ハクは首を横に振った。

「千尋は何もしてない。‥‥‥私のせいだ。私の為に千尋は狙われたんだ」

「ハクの‥‥?」

千尋はますます不安そうにハクを見上げる。

「ハク、狙われてるの? 誰に? 何の為に?」

ハクは首を横に振った。

「わからない‥‥‥でも、あの式神からは微かに別の気配がした。それから辿れると思う」

辿れる、という言葉で、ハクが千尋の家に呪いをかけた相手を探し出そうとしているのがわかった。

ハクはとても強くて、魔法も使えて、しかも神サマで、心も強い。

負ける筈ない。

そう思うけど‥‥それとこれとは別。

ちょっとでもハクが傷つくような事があったら、たまらなくつらい。

「ハク‥‥わたしも‥‥」

ついて行く、という言葉を言う前に、ハクが厳しい顔で首を横に振った。

「ダメだ」

「だって!」

「危険すぎる。何が起こるかわからないんだから」

「だったらなおさらだよ!! ハク一人で危険な事なんて‥‥‥ダメだよ!」

「つれていけない。千尋は家にいて」

ハクはそれ以上千尋につきあうつもりはないといわんばかりに背を向け、歩き出した。

「ハク!!」

ハクは優しい。

千尋の言葉は、それが度をすぎたものでなければたいてい受け入れてくれた。

度がすぎたものでも、優しくたしなめて正してくれる。

なのに、今回はちっとも受け入れてもくれない。

それだけ、危険なのだという事が千尋にも解った。

だからこそ一緒に行きたいのに。

自分だって、一緒にいれば何かハクの役にたつかもしれない。

足手まといにもなるかもしれないけど。

でも。

「ハク!!」

もう一度大きく呼びかける。

しかし

ハクは振り返らなかった。








次の日。

千尋はようやく意識を取り戻した母を確認して、朝ご飯もそこそこに家を飛び出した。

あの森へと向かう。

もしかしたらハクが戻ってるかもしれない。

そんな一縷の望みを託して。



ハクはそこにはいなかった。