Curse(カース)
その4
2日たち、3日がたち、4日がすぎようとしていた。 ハクの姿はない。 千尋は毎日森に来ては、よくハクがいた大木の下で彼の帰りをずっと待っていた。 膝を抱え込み、千尋は不安と淋しさをも抱え込んでじっと座っている。 「‥‥はやく‥‥はやく帰ってきて‥‥」 ハクの元気な姿を見ないと安心出来ない。 ハクの元気な声を聞かないと、胸のどきどきはおさまらない。 がさっ。 草むらの揺れる音に、千尋はびくっと振り返った。 「ハク!?」 その声に、反応があった。 「ち、ひろ‥‥? どうして‥‥?」 しかし声だけで姿は確認出来ない。 ハクの姿を見ようと立ち上がり、草むらへと踏み込んだ千尋は―――――悲鳴をあげた。 「ハクっ!!」 ハクは、全身に傷を負って立っていた。 「大丈夫‥‥‥見た目ほどに、つらくはないから‥‥」 「でもっ、でもっ‥‥」 ちゃんと応急処置の仕方を習っておけば良かった。 服はボロボロに裂けて、そこから血が流れたのだろう――――あちこちに赤いシミが残り。 頬にも傷が走っている。 ハクがこんなに大怪我を負っているのに、千尋ときたら泣きながらハンカチを水で濡らして、その泥を拭うくらいしか出来なかった。 あの時ハクが大怪我を負った時は、河の神から貰ったニガダンゴがあった。 そして隣には薬草の知識に長けた釜爺がいてくれた。 だから千尋はハクを助けられた。 しかし、千尋だけではなにも出来ない。 その傷を癒す力も ハクを守る力も なんにもない。 今ほど、自分が無力だという事を思い知らされる事はなかった。 「千尋‥‥‥泣かないで」 ハクの指が、千尋の涙を拭う。 「このくらいの傷、一日休めばすぐに治る」 千尋は嗚咽しながら首を横に振り、ただ一心にハクの体の泥を拭おうと手を動かす。 「大丈夫だから‥‥ね?」 ハクは優しく、千尋を労るように何度も声をかけていく。 「千尋の顔を見たら‥‥安心したから」 ハクの声には魔法がかかっているようだ。 あんなにつらかったのに、優しく話しかけられただけで、心がやわらかくなってく。 千尋はようやく息をついて――――ぐしっと涙を拭った。 「‥‥ごめん。心配かけて‥‥」 ハクのすまなさそうな声に、千尋は今度はそうだよ、と頬を膨らませた。 「ずっと帰って来ないと思ったら、こんな大怪我して‥‥一体何してたの? 教えてくれるよね?」 「ん‥‥」 ハクが口ごもった瞬間――――ざぁぁっ‥‥と木々が揺れた。 |