Curse(カース)
その5






「!?」

千尋にもハッキリとわかるほどの、異変。

木々が騒いでいる。

何かが来たと、告げている。

「‥‥千尋‥‥‥」

ハクが、千尋をすっと押しやる。

何が起こるのか理解出来ずに、千尋はハクの腕にしがみついた。







「‥‥逃げろ」

ハクが低く呟く。

「逃げろ、千尋!!」

千尋を思いきり突き飛ばすと、ハクは両手をつきだして一気に気合いを放った。

「きゃぁっ!!」

突き飛ばされて転がった千尋は、思ったよりも体が痛くなかった事も幸いして、すぐに起きあがった。

「ハクっ!!」

千尋の視線の先にハクはない。

焦って視線を彷徨わせる――――と、大木の木の上にハクが立っているのが見えた。

「ハク!!」

「行け!! 早くっ!!」

ハクは叫ぶと立っていた枝から別の枝へと飛びずさる。

すぐにその枝は何者かの力によってへしゃげ、耳障りな音をたてて大地に落下していった。




何かが、ハクを殺そうとしてる。

テレビでしか見た事ないような光景に、千尋はただがくがくと震えるしか出来ない。

相手は、どこ?

どこにいるの?

ハクは攻撃に当たらないようにと逃げ回っているが、動きにいつものようなキレが見られないあたり、傷がうずいているのだろう。

相手も頻繁に場所を変えているらしく、千尋からは何処にいるのか全くわからない。

「千尋!!! 早くここから逃げろ!!」

ハクの叫びに千尋ははっと我に返った。



自分がいるから。

自分がいるせいで、ハクは攻撃に移れないのだ。

ここで攻撃すれば、千尋を巻き込む可能性があるから。

だから攻撃を避けるしか出来ないのだ。

情けなくて、涙が出てくる。

いつも、ハクの荷物にしかなれない私。

こんなんじゃ‥‥‥

自己嫌悪に陥りつつも、ここから逃げようとしていた千尋の視線のすみに、ふっと何かがよぎった。

人影。

ハクを狙ってる、相手だ。



そう理解したとたん、千尋の体に震えが走った。

自分からの距離は近い。

おそらく、10メートルも離れていないだろう。

相手はハクに気をとられているのか、千尋の存在に気がついていないらしい。




いける!

そう思った瞬間、千尋はだっと走り出していた。

森の入り口の方向でなく

その相手に向かって。