Curse(カース)
その6







「千尋っ、やめろ!!! 千尋――――っ!!」

ハクが絶叫するのもかまわず、千尋は相手に突っ込んでいった。

「なっ‥‥!!」

「いきなり攻撃するなんてっ、卑怯よっ!!!」

勢いに任せて相手を押し倒し、そのまま組み付く。

まさか千尋がそんな行動に出ると思っていなかったらしいその人物は、組み付かれてようやく千尋の意図に気がついて、引き剥がそうと手をかけてきた。

「こっ‥‥の!! 放さないか!!!」

「やだっ!! 絶対に離れないからねっっっ!!!」

渾身の力をこめてぎゅぅっと組み付き、爪をたてる。

「この‥‥‥子供と思って甘く見てれば!!」

いきなり頬をばちんとひっぱたかれる。

「〜〜〜っ!!」

もの凄く、涙が出るほど痛かった。

本気で叩いたのだろう、口の中が切れて血の味がしてくる。

それでも千尋は、ぎゅうっと相手を組み敷いたまま。

ここで離れたら、ハクが攻撃される。

私がこうしてる間は、ハクは何にもされない。

死んだって離れてやるもんか!!


「千尋っ、やめろ!!」

ハクが千尋に近づき、無理矢理彼女を引き剥がす。

ぜぃぜぃと息をつきながら千尋は唇から滲んでいた血を拭い、相手を睨み付ける。

そして――――驚いた。


そこにいたのは、20代くらいの人間の女性だったのだ。






長袖シャツにGパン姿。

長い黒髪を後ろで束ねている、キツい顔立ちの女性。

ただ、手に数珠を持ち――――なにやら札みたいなものを持っている以外は、ごく普通の女性にしか見えない。

しかし千尋にもわかった。

この人は、ただの人間じゃない。

女はさっき千尋に組み敷かれて汚れてしまったGパンの汚れをしきりに落とそうとはたいている。

「ったく‥‥汚れちまったじゃないか。汚れが落ちなかったらどうしてくれるんだい!」

「あなたがっ‥‥あなたが、ハクを、わたしを狙ったのっ!?」

すっかり興奮してかみつくように叫ぶ千尋を、ハクが後ろから抱きしめるようにして押さえつける。

「落ち着いて、千尋!!」

ハクは千尋を抱きしめたまま、目の前にいる女性を睨み付けた。

「‥‥千尋に手を出すなと言った筈だ!」

「そっちから仕掛けて来たのが悪いんだよ。手を出されたくなけりゃ籠の中にでも閉じこめておくんだね」

女はそう言うと札をハクのほうへと向けた。

「この前はまんまと逃げられたけど、今日はそうは行かないよ。覚悟するんだね」

ハクは千尋を自分の後ろに隠すと、首を横に振る。

「私ではないと何度言ったらわかるんだ。私はこちらに来て間もない‥‥‥妃夜良川など、知らない」

「あんたでなけりゃ誰だって言うんだ。あんたが水の扱いに長けてるってのはわかってるんだよ。覚悟しな!」

聞く耳持たない女に、ハクは千尋を庇うようにじりっと後ずさる。



――――妃夜良川。

きよらがわ。

千尋はその言葉にどこか聞き覚えがあった。

「――――あ‥‥!! もしかして、妃夜良川って!!」

千尋は大声をあげて、ハクを押しのけるようにして女に近づいた。

「ち、千尋!!」

ハクが慌てて千尋を引き戻そうとするのにもかまわず、千尋は女を見上げて叫んだ。

「テレビでやってた、あの妃夜良川!? いくら整備してもすぐに決壊し、魚も住まなくなった死の川と言われてる‥‥!!」

「――――そうだよ。その、妃夜良川だ」

女は札を持った手を下ろし、千尋をじっと見つめた。