Curse(カース)
その7








前に、テレビで特集をしていた。

数年前から魚も微生物も住まなくなっている死の川があると。

どんなに堤防で固めても雨が降ればすぐに水が溢れて決壊する川。

川自体はそんなに大きくない川なのだが、昭和の時代にはゴミ捨て場と化していた為に腐臭が漂っていたのもあって、平成に入ってから美化委員会というのが設置され、川の美化に努めて来たらしい。

が、魚が育つ事はなく、今では草も生えない有様。

しかも雨が降ればすぐに水位があがり堤防を越える為に、付近の住人は住めなくなって次々と引越を余儀なくされている。この川から住人を救う為にはどうしたらいいのか、それが今後の課題である――――テレビはそう締めくくっていた。


千尋がそれをハクに話して聞かせるのを女はただ黙って見ていた。

話を聞くにつれ、ハクの表情が見る間に固くなっていく。



「その川に悩まされている町の町長が「この川が暴れる原因を調べて欲しい」ってあたし達のところに言って来たんだよ。科学的な調査では原因がわからないからってね」

調べてみたら――――そこからは確かに人外のものが感じられたのさ。悪しきものがね。

女が告げる言葉を聞きながら、千尋はいつの間にかハクの服をぎゅっと握りしめていた。

「仲間たちのありとあらゆる手段をつかって調べたよ。そうしたら‥‥この町で、人間じゃない―――しかも強い力を感じるって、そう結果が出たのさ」

その強大な力と川の異変とをすぐに結びつけたのは――――それだけ川が異常で、それだけハクの力が強いという事からなのか。

女はおろしていた手を再びハクのほうに向け、札をつきつけた。

「‥‥逃がしはしないよ。あたしだって退魔陰陽師としてはちょっとは名の知れた者だ」

「ま、ま、待ってよ!! だから、なんでいきなりその川とハクとを結びつけるの!? ハクは違う!!」

ハクと女との間に割り込むように千尋が立ちふさがる。

「ハクは違う! だって、ハクがここに来てからまだ一ヶ月もたってないもの!! その川の異常は数年前からでしょ!? ハクじゃない!!」

「あれほどの異常をおこすとしたら相当の力の持ち主だけだ。今のところ、あたし達が感知した中ではコイツの気がもっとも強い。こいつしか考えられないね」

再びその女と千尋のバトルが始まろうとした時――――ハクの凛とした声が響いた。

「――――原因は、おそらく‥‥主だ」

その言葉に、二人が視線を向ける。

ハクは千尋と女とを見比べ、ハッキリと言葉を紡いだ。


「――――川の主に、何かあったとしか思えない。原因は、おそらくそれだと思う」




「‥‥そんな事を言って、言い逃れしようったって無駄だよ」

「言い逃れなどしない。‥‥もしかしたら、その川に主がいなくなったのかもしれない」



主がいなくなる。

川と主とは一体。

ハクは川を失った。

今度は―――その逆の事が起ころうとしているのだろうか?


千尋はぎゅっと胸の前で手を握りしめた。






「主だって? 川は川だろ。そんな主とかいうでたらめを‥‥」

「でたらめなんかじゃない」

ハクは女を見据える。

―――その視線に、さしもの相手もひるんだように後ずさった。

「と、ともかく‥‥その妃夜良川に行ってみようよ。そしたらハクがしたかどうかってわかるでしょ?」

「‥‥それはそうだけど」

実に建設的な意見が千尋が出てきて、それ以外に方法はないと悟ったか、ハクも相手も頷いた。

「じゃあきまりねっ。えと‥‥名前は?」

「‥‥柚木美晴(ゆずきみはる)」

女――――美晴はそう呟くとしぶしぶといった様子で札をしまいこんだ。

「私は‥‥」

千尋が自分を紹介しようとすると――――

「荻野千尋。そっちがハク、だろ?」

あんたんちに呪いを込めた人形を送り込んだんだから、名前くらい知ってるさ。と美晴は悪びれず笑う。

もしかして。

任務に忠実なだけで本当は悪い人じゃないかもしれない。

千尋はそう思い始めていた。

美晴の印象が――――どこかリンに似ていたせいもあるかもしれなかった。