Curse(カース)
その12









龍がハクを打ち据えようと尾を振りかざす。

「!」

そこからハクが飛びずさった瞬間、龍の尾は水面を叩いて凄まじい水柱を吹き上げさせた。

「主よ! まだ間に合う‥‥正気に戻られよ!!」

ハクが龍に叫ぶが龍はその声など聞こえぬようで、残った片目でぎょろりとハクを睨み付けた。


――――ニン‥ゲン‥‥‥コロス‥‥‥


ハクの脳裏に直接龍の声が聞こえてくる。

もはやハクが何者かも理解出来ないほどに、主は正気を失っている。

ハクが人間の姿をとっているからか、それとも千尋や美晴が近くにいるからなのか。

目の前にいるハクを倒す事しか、今の龍には考えられないのだ。



「何やってるんだ!! 反撃しないと殺されるぞ!!」

美晴が怒鳴る。

ハクが反撃もせずただ逃げ回っているのが、美晴には理解出来なかった。

「殺されてもいいのか!!」

美晴の声に、ハクは何も返事を返さない。

返す余裕がない訳ではなく、美晴の言葉に同意出来ないから、返事を返さない。

だからこそ腹立たしい。




自分の隣で不安そうにあの少年を見つめる千尋。

確かに、あの少年はこの娘が大切だと言った。

そばにいたいと。

守りたいと。

そうハッキリ告げたあの言葉に嘘偽りはない事くらい、わかる。




甘い。

本当に守りたいなら、他のものなどすべて切り捨ててしまうくらいの非情さがないと、一番大切なものを失ってしまう。

あの少年は、甘い。

龍を、この川の主だという龍を助けたいのだという気持ちは、わからないでもない。

しかし。

もしもあの龍がこの少女を傷つけたら、どうする?

それでもあの少年は、龍を助けたいと思うだろうか。

両方を助けたいなんていうのは理想論だ。

理想にしかすぎない。

本当に。

本当に大切なら――――――




「!」

尾の攻撃をよけたハクは、その動きを読んでいた龍に体当たりをされて一気に水の中に引きずり込まれた。

水の中は濁っていて、1メートルも視界はない。

主が狂うのも無理はない。

自分も川を失った主であるがゆえに、この龍の痛みは手にとるように分かる。

本来、自分がこの龍と戦う意味はない筈なのに。


どうして。