Curse(カース)
その14







「‥‥きたね」

水上に姿を現した龍を見据え、美晴は札を構えた。

「あの坊やがやらないなら、あたしがやるまでだ」

「美晴さんっ‥‥!」

千尋が美晴の服をつかんだ。

「ハクには何か考えがあるの、だから、だからあの龍を傷つけないで!」

「あんたは黙って引っ込んでな! 足でまといなんだよ!!」

美晴の視線がすぃ、と千尋に向けられた隙。

それを狙って龍が一気に二人に襲いかかって来た。

「くっ!」

美晴が札を掲げ、早口で呪文を唱える。

札から炎が現れ、それを美晴は気合いとともに龍に向かって放った。

「破!!」

炎が龍を包み込む。

が、それを龍は身震い一つで振り払った。

「こんな子供だましは効かないか!」

次の札を出そうと美晴が懐を探る。

「美晴さんっ! 上!!!」

千尋の悲鳴に美晴が上を見た時。

龍がその大きな体をもたげて一気に美晴めがけて、急降下してきていた。




「きゃああああ!!」

頭を抱えて千尋は思わずうずくまった。

しーん、と静まりかえる雰囲気におそるおそる目を開ける。

「‥‥みっ‥‥美晴さん!!」

体当たりはかろうじて避けたものの、美晴は大地にたたきつけられて意識を失っていた。

動かなくなった美晴に興味をなくしたのか、龍の目が今度は千尋に向けられる。

「‥‥ひっ‥‥」

その距離、わずか2メートル。

その迫力に千尋は立ち上がる事も出来ず、ただ龍を見つめるばかり。




ふ、と。

龍が泣いているような気がした。

傷つき、苦しみ、それでも川から離れられない川の主。

人間に痛めつけられたその傷を癒す事もかなわず、ただその身に受けるだけの龍。

その目の怒りや憎しみの奥に、悲しみが見える。




ハクに、この龍を傷つけられる訳がない。

自分と同じような運命を辿ろうとしているこの龍を。

彼が自分の手で傷つけられる筈がない。




この龍だって、人間を滅ぼしたい訳じゃない

ただ、この苦しみから逃れたいだけ

このつらさを癒したいだけ

ただそれだけなのに