Curse(カース)
その15








「千尋!!」

「‥‥ハク!?」

ハクの声がする。

千尋ははっとそちらの方を見た。



龍と、千尋の間の均衡が破れた。





赤く染まった鱗が、眼前に迫る。

千尋はそれをじっと見つめていた。








「千尋―――――っ!!」


今、何が起こった?


千尋が、龍の前にいて


それで




あの赤は、龍のものじゃない




千尋の





千尋の赤






頭の中が真っ白になって。

気がつけば、ハクは千尋を抱きしめていた。

ハクの服が、赤に染まっていく。

千尋の肩口がざっくりと避けて、血があふれ出していく。


「千尋‥‥‥千尋‥‥!」

揺さぶっても何も返らない。


声が、返らない。




いきなり現れたハクの存在に龍がうなり声をあげる。

―――――邪魔 ヲ スルナ‥‥‥!!


―――――ソノ 娘ノ 肉ヲ 食ラッテ

―――――我ハ 再ビ 神 ト ナルノダ!!



「‥‥るさい」

ハクは千尋をぎゅっと抱きしめて呟いた。

「‥‥うるさい‥‥うるさい!! うるさい!!!!」

千尋を横たえ、ハクは涙を拭おうともせずに立ち上がった。

「‥‥許さない‥‥‥‥殺してやるっ!!!」

ハクの体が光り輝き、その身が白い竜へと変化する。


龍がひるむ。

そのまばゆさに、その感情に押され、後ずさる。


白い竜が、血に染まった龍に襲いかかる。

首筋に牙をたて、そのまま肉を食いちぎる。

痛みにのたうちまわり川に逃げようとする龍を、白い竜は逃がさず――――そのまま急所にかみついた。






龍の 声が 消えた。