Curse(カース)
その16
「‥‥‥っ‥」 めまいがする。 気分は最悪。 それでも千尋は、目を開けた。 「‥‥たっ‥‥」 そのとたん、体に激痛が走る。 肩が焼けるように痛い。 しかしその痛みは生きている証拠。 私は、まだ生きている。 何とか身を起こした千尋は、目の前で繰り広げられている惨状に目を疑った。 あの龍は、すでに息絶えていた。 力無くその巨体を横たえ、あたりには血の匂いが満ちている。 そして――――すでに動かなくなりただの肉塊と化した龍を、それでもまだ食らいついて引きちぎろうとしている、白い竜の姿。 美しい銀の鱗が血に染まっても その行動をやめようとしない。 「ハク‥‥ハク‥‥!!」 声がかすれて、出ない。 「や‥めて‥‥ハク‥‥」 千尋は立ち上がろうとして肩から来る凄まじい激痛に歯を食いしばった。 出血によるものか、めまいが酷い。 寒気もする。 結局立ち上がれぬまま、千尋は白い竜の―――ハクの元まで這いずりながら、移動し始めた。 「ハク‥‥もう、いいの。いいから‥‥」 一心不乱にその行動を続けるハクに、千尋の声は届かない。 何度も崩れ落ちそうになりながら、千尋はようやくハクの元へとたどり着いた。 「もう‥‥いいよ‥‥だから‥‥ハク‥‥」 渾身の力をこめて立ち上がり、ハクの首にしがみつく。 「休もう‥‥ハク‥‥疲れたでしょ‥‥ね‥‥」 力をこめて、ハクを抱きしめる。 「もう‥‥休んでいいから‥‥」 気がつけば、ハクの姿は人間に戻っていた。 涙に濡れた瞳が、千尋の姿を映す。 「‥‥‥‥‥‥」 狂気に染まった瞳が行き場のない負の感情をたたえ――――目の前にいる千尋すら認識出来ない。 「ハク‥‥ハク‥‥私を見て‥‥千尋よ‥‥」 "千尋"という名を聞いたとたん、ハクの体がびくんと震えた。 「‥‥‥ち、ひろ‥‥?」 震えるようなハクの声に、千尋は――――にっこりと微笑んだ。 千尋の指が――――血で濡れた指が、ハクの頬を撫でる。 「‥‥そう‥‥私よ。だから‥‥泣かなくていいの‥‥ね?」 狂気に染まっていたハクの瞳がじょじょにいつもの色に戻り――――はっきりと千尋をとらえる。 「‥‥千尋‥‥私は‥‥」 「いいの‥‥もう、いいから‥‥」 意識が、遠のく。 もっと、ハクに言いたい事はたくさんあるのに。 力が抜け、崩れ落ちる千尋の体を、ハクが抱き留める。 そのままハクは千尋を強く抱きしめた。 「千尋――――千尋‥‥‥!!」 「大丈夫‥‥だから‥‥」 千尋は、ハクをあやすように背中を撫でると――――そのまま意識を失っていった。 |