異邦人〜エトランジュ〜
その10








久しぶりの我が家で千尋はくつろいでいた。

親には住み込みのバイトと言ってある――――どこに行くか、というのはハクが魔法で細工をしてくれているために疑問を抱いてはいないが。

「千尋、明日には戻るんでしょ。バイト先の人にきちんとご挨拶するのよ」

「はーいっ」

返事をして戻る用意をしていた千尋に

「おーい千尋ー。おもしろい番組してるぞー降りておいでー」

居間から父親が声をかけて来た。

未だに子煩悩で娘に甘い父に、千尋は苦笑した。

たまに帰って来た時くらいは親孝行と思ってつきあおうか。

「はぁーい!」

千尋はバッグを閉じると、トントン‥と階段を下りて居間へと向かった。





父親とテレビを見ていると、母親がりんごを持って入って来た。

「はい、千尋。田舎から送って来たものよ。食べなさい」

「んー」

それに手をのばしかけた千尋は、テレビに映ったある映像にぴくっと動きを止めた。

「!!!!?」

テレビに飛びついて、そこに映る人物を凝視する。

「千尋っ、テレビ見えないわよ!」

母親の声も今の千尋には届かない。



「―――――うそ」




千尋はただただテレビを凝視していた。










次の朝。

湯屋の皆が眠るのを良いことに、ハクはトンネルを抜けたところまで千尋を迎えに来ていた。

いつもならもうやってきてもよい時間なのに、千尋の姿は見えない。

「‥‥‥どうしたんだ」

不安に駆られ、ハクがつい口に出した時―――――


「あ、ハク!!」

千尋が息せき切って坂を上ってきた。

「千尋‥‥‥」

ハクがあからさまにホッと息をもらす。

「どうしたの、こんなところまで‥‥」

「いや‥‥」

千尋がいつ戻るか心配で‥‥とはさすがに言えず、ハクは曖昧に笑った。

「そう! それより、大変なことがわかったの!!」

慌てた様子の千尋に、ハクは表情を引き締めた。

「何か‥‥あったのか?」




千尋が持ってきたのは、新聞の切り抜き。

数日前の日付のそれにざっと目を通したハクは、あるところで視線を止め――――そして、千尋を見やった。

「‥‥ね? 大変でしょ」

「――――ともかく、湯屋に戻ろう。話はそれからだ」

「うん!」

ハクは千尋の腕をとると、トンネルへと向かって歩き出した。








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