翼はもうはばたかない
その3
知らなくてもイイことを知ってしまったら 人はどうなるんだろう |
「ハクの事で話‥‥って‥‥?」 一度見知った相手だとわかると多少の緊張もとれ、千尋はそう河の神に訊ねた。 『調子が悪そうだと感じているのじゃろう?』 どきん‥‥とした。 忘れようとしていた事をいきなり目の前に引きずり出されて、狼狽してしまう。 「‥‥そ、その原因を知ってらっしゃるんですか‥?」 『―――知っておるよ』 知りたくない でも 知らなきゃならない 知ってしまっても私はちゃんと正気を保っていられるだろうか 躊躇しているらしい千尋に、河の神は優しく微笑みかけた。 『わしの口から聞くよりも、自分の目で確かめた方が良いじゃろう』 「え‥‥?」 『どうしてコハクがこの世界に存在出来ていたのか‥‥それを知らねばならん。琥珀川に行きなさい』 「琥珀川‥‥‥に?」 今はもうない川の名前。ハクの分身。 「そこに行けば‥‥‥わかるんですか?」 『自分の目で確かめなさい。そして―――自分で判断しなさい』 河の神はそれだけ云うと、すぐ近くにあった川に身を躍らせて―――その姿を消した。 後には、千尋が残るばかりだった。 |