翼はもうはばたかない
その4


















全てを分かち合いたいのに それができないのは
会えないのよりも つらい























「千尋、遅かったね‥‥」

ハクの待つ森へと戻ってきた千尋に、ハクは眉をひそめた。

「‥‥千尋、誰かと会った?」

「え?」

「別の気配が残っている。誰かと会ったね?」

河の神――――と言いかけて、千尋は口をつぐんだ。

「何でもないの‥‥」

「何でもない訳がない。かなりの力を持つ精霊‥‥‥私と同種の力を持つ神の気配だ。誰と会った!?」

「いいのっ。何でもないんだからっ」

話はそれでおしまい、とばかりにハクの隣を通り過ぎようとした千尋を

「待ちなさい!」

ハクが肩をつかんで止めた。

「それが原因で、もし千尋に危険な事が起こったらどうするんだ!」

「あの人がそんな事するはずっ‥‥」

ない、と言いかけて、千尋ははっと口を押さえた。

「――――誰だ? それは」

ハクは千尋を睨み付けている。

本気で怒っているらしいハクに、千尋はこれ以上はごまかせないと判断した。

しぶしぶ、口を開く。

「‥‥あの‥‥昔、私が湯屋でお世話をした河の神様に‥‥会ったの」

「河の神? 河の汚れの為に腐れ神になっていたという‥‥あの?」

千尋の話に嘘はないと判断したのか、ハクの表情が少しやわらかくなった。

「そう。‥‥懐かしくて、つい話し込んでしまって‥‥‥」

ハクは千尋の肩を掴んだまま何か考え込んでいる。

「‥‥ハク?」

「いくら千尋が普通の人間よりも慣れているとはいえ、何も用がないのに人前に姿を現す筈がないんだが‥」

「わ、私に分かる筈ないじゃない‥‥」

納得いかない様子ではあったが、それでもこれ以上千尋に聞いても無駄と思ったのか、ハクは手を離した。

ハクが掴んでいたところが、痛い。

その痛みは、千尋の心の痛みと同調して――――酷く疼いていた。













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