翼はもうはばたかない
その5
私たちの刻が動き出す ゆっくりと 奈落に向かって |
次の日。 千尋は電車に揺られていた。 学校は休みなので親に文句を言われる事はない。 ただ、ハクには何も言わずに来てしまったので、なかなか森に現れない千尋を心配しているかもしれない。 窓の景色を見るのにも飽きた千尋は、鞄の中からそっと紙を出した。 「‥‥‥‥‥‥」 そこには、琥珀川のあった場所への地図が描かれていた。 河の神は「自分の目で確かめて、自分で判断しなさい」と言った。 だから私は自分で判断しなければならない。 琥珀川が今どうなっているのか。 ハクがどうしてこの現世界に存在出来ているのか。 でも ――――それを全て知った時、私は‥‥私たちはどうなるんだろう。 こみ上げてくる不安をこらえ、千尋は唇をかみしめた。 琥珀川があったところはマンションになっているのは、母から聞いて知っていた。 ここに琥珀川があった、という歴史が書いてある記念碑のみが、昔の足跡をそこにとどめている。 ここにやって来てはみたものの――――それから先どうすればいいのかを考えあぐね、千尋はただぼんやりとその記念碑を見つめていた。 「お嬢ちゃん、琥珀川を調べてるのかね?」 突然後ろから話しかけられて慌てて振り返る。 「あ、え、ええ‥‥昔ここに住んでたんです」 振り返ると、腰の曲がったおばあさんがにこにこと微笑んで立っていた。 「そうかぃそうかぃ‥‥琥珀川ももう埋め立てられて10年以上になるからねぇ」 「あのマンションが建っているあたりですよね‥‥」 千尋が指さすと、おばあさんはそうだよ、と相づちを返した。 「川を蘇らせようという話もあったらしいがねぇ‥‥川の本流がもう既に死んでしまっているからね。まだ湧き水として出ていたんだけど‥‥それももう枯れかけているそうだよ」 「‥‥‥!」 もしかして。 「それって‥‥‥何処なんです? すぐに行けるところですか?」 「ここからは少し遠いが、行けない場所じゃあないかねぇ‥‥」 「教えてください!」 千尋はおばあさんに食らいつくように身を乗り出した。 「‥‥あ、ああ‥‥地図を書いてあげるよ」 おばあさんに地図を書いてもらっている間、千尋はずっと胸を押さえていた。 |